ライフスキルとは

こころの成長

WHOの危機感

人生にはいろいろな場面があります。人に何かをお願いしなければならない場面、誘いを断わりたい場面、間違いを謝らなければならない場面、役割を果たさなければならない場面。

そういった場面の中で親や大人がとる行動を目の当たりにしながら、子どもは自然と日常をうまくやりくりする生活スキル(life skills)を学んできました。

しかし、WHOは、このようなスキルが世代を超えて引き継がれなくなっているという問題意識を示しました。1990年代のことです。

そのころはWindows95が出て、本格的にインターネットが日常生活に入り込む入り口付近の時代でした。世界中にサプライチェーンが張り巡らされ、国境を越えた分業体制と、それに伴って人々の移動が活発になっていく時代が、もう目の前に来ていました。

ライフスキル

そのような時代の大きな変化の中、WHOは子どものウェルビーング(健康や幸福感)を維持・増進するためには、人生で出会う困難に適切に対応できるスキル、つまり「ライフスキル」を子どもたちに教え、育てなければならないと考えたのです。

それからすでに30年以上が経過しましたが、このWHOの考えは今でも有効だと思います。

それでは、WHOは、子どもたちのどんな力を育てなければならないと考えたのでしょうか。

「ライフスキル」いろいろ

WHOのいう「ライフスキル」とは下記のとおりです。ただ並べられているだけだと把握しにくいので、私なりに分かりやすく4つのカテゴリーに分類してみました。次の通りです。

第一グループ:主体的意思決定

第二グループ:身近な人との関係づくり

第三グループ:自分を知る

第四グループ:他者と一定の距離を置く

それぞれを解説してみましょう。

第一グループ:主体的意思決定

このグループには、「意思決定」「創造的思考」「問題解決」が含まれます。

意思決定

生活に関する決定を主体的に建設的に行えるようになること。これができるためには、健康に関する行動について、青少年が様々な選択肢とその決定がもたらす影響を評価できなければなりません。

創造的思考

そこで、「創造的思考」です。「創造的思考」は、一言でいうと”選択肢をたくさん出せること”です。

そして、その選択肢を選んで行動すること、あるいは行動しないことがもたらす結果までを考えることです。

問題解決

「問題解決」とは、もちろん問題解決することです。ただここで強調したいのは、むしろ、重要な問題を未解決のまま放っておくことの精神的ストレスや身体的緊張を理解できることです。

第一グループの「主体的意思決定」とは、何か問題が起こった時に、選択肢を出して、それを選んだらどうなるか、他を選んだらどうなるか、そして何も選ばすそのままにしておくとどうなるかということを考えて、その中から主体的に選択し行動すること、とまとめられそうです。

第二グループ:身近な人との関係づくり

このグループには「対人関係スキル」「効果的なコミュニケーション」が含まれます。

対人関係スキル

自分たちの精神的・社会的健康にとって重要な友人関係を築いたり、維持したり、建設的なやり方で解消することを可能にするスキルです。特に社会的支援の重要な源である家族と良い人間関係を保つことができるスキルといえます。

対人関係スキルの中に、関係を「構築」するだけでなく、「解消」することも含まれていることがなかなか面白いです。

効果的コミュニケーション

自分たちの文化や状況に合ったやり方で、言語的にまたは非言語的に自分を表現するスキルです。意見や要望だけでなく、欲求や恐れを表明できることであり、必要な時はアドバイスや助けを求めることができることと言えます。

第二グループをまとめると、家族や友人関係の中でアサーション行動や援助要請行動ができることと言えそうです。

第三グループ:自分を知る

このグループには「自己意識」「情動への対処」「ストレスへの対処」が含まれます。

自己意識

自分の性格、長所と弱点、したいことや嫌なことを知ること。どんな時にストレスやプレッシャーを感じるかを知っていること。

情動への対処

自分や他者の情動を認識し、情動が行動にどのように影響するかを知り、情動に適切に対処する能力。情動に対処しない場合の健康への影響も考慮できること。

先の「問題解決」と同じく、情動に対処しない場合、健康にどのような影響をもたらすかを考慮できることまでを含みます。

ストレスへの対処

生活上のストレス源を認識し、その影響を知り、ストレスのレベルをコントロールすること。避けられないストレスが健康問題に進展しないように、リラックスする方法を学ぶことです。

第三グループをまとめると、自分の得意と苦手あるいはしたいことと嫌なことを積極的に知ろうとするとともに、それらがもたらす情動やストレスに目を向け対処しようとすること、と言えそうです。

第4グループ:他者と一定の距離を置く技術

このグループは「批判的思考」「共感性」が含まれます。

批判的思考

情報や経験を客観的に分析する能力。仲間からの圧力やメディアの力を評価し「そう簡単には流されない、だまされない」という力です。

共感性

自分がよく知らない状況に置かれている人の生き方であっても、それを心に描くことができる能力。

日本で共感性というと、「相手の気持ちに寄り添う」といったニュアンスがありますが、WHOの定義はそれよりもずっと手前という印象です。

第四グループをまとめると、一つは、自分を都合よく利用しよう近づいてくる力と一定の距離を保つこと。もう一つは、遠くの知らない人を攻撃したり排除するのではなく、近づきつつ一定の距離を保つことという二つの方向性がありそうです。

「ライフスキル」のまとめ

現代では、子どもに育てるべき能力として「社会情動的スキル」とか「非認知能力」とかが知られています。これらは特別な能力ではなく、昔は日常生活の中で親から子へと自然に伝わっていた知恵でありスキルであったのだと思います。

しかし、現代は世代によって経験することが全く異なっています。ですから今後の学校教育は、このようなスキルを育成することが期待されていくのだろうと思います。

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