学級集団の発達過程

学ぶということ

学級の姿

スクールカウンセラーは、時に教室に行って行動観察をすることがあります。これはスクールカウンセラーの存在を児童生徒に認知してもらえるので、私は積極的にやっています。

当たり前ですが、学級は時期によって見せる姿が変わります。1年を通して学級を観察していると、学級集団も発達するのが分かります。児童生徒の発達を促進しようと思えば、その土壌ともいえる学級の発達段階を知っておくことも必要かもしれません。

そこで、調べてみたところ、学級の発達段階にはおおよそ5段階あるようです。以下、文献としては古いのですが、(蘭千壽・古城和敬(1996)『教師と教育集団の心理』誠信書房)を参考にして、学級の発達段階についてまとめてみます。

5つの発達段階

第1段階(混沌・緊張期)

学級編成直後の時期です。子ども同士にはあまり交流がなく、学級のルールも定着していません。一人一人がバラバラな状態で、友人関係はすでにある人間関係に閉じこもるなどしており、表層的なものです。

新年度開始からの2、3週間の時期の担任は、そんな子どもの様子を観察しているそうです。この時の担任は、早急な指導が強制的な印象を与えてしまうことに注意を払っているとのこと。すぐに介入するわけではなく、可能な限り日常の生徒や学級の様子を把握することに重点をおくそうです。

こうして学級の様子を把握しながら、担任の願いや期待という形で、学級目標や学級観を生徒に示唆して、学級のまとまりを求める方向で意欲を喚起することに留めています。

カウンセリングと同じで焦りは禁物なのですね。

このような流れの中で、生徒を学級に慣れさせるとともに、だれがリーダーになれそうなのかを発掘することも欠かせません。虎視眈々といった感じでしょうか。

第2段階(小集団形成期)

新しい学級になって、2、3週間がたつと、次第に子ども同士の交流が活発化して、学級のルールが意識され始めます。

担任は子どもと学級の様子を観察し終わって、いよいよ担任主導による学級づくりが開始されます。

主な目的は、学級目標や対人関係の基本ルールを示して、ルールの確立と仲間づくりを推進することです。その手段としては、班や係などの役割を設定し、それらの組織を組み替えたり、そのあり方を積極的に評価しながら、担任の願いを伝えていくという形で進みます。

そして、いろいろな機会をとらえて、生徒に声をかけ配慮を示しながら、信頼構築に向けたコミュニケーションを図るようです。このことによって、生徒との個別的な関係作りも進めていきます。

第3段階(中集団形成期)

新しい学級になって3か月ほどすると、担任の指導スタイルと学級のルールが次第に定着してくるようです。そして、趣味が同じで話が合うなどによって、生徒の性格や特徴を中心とした友だち関係ができ始めます。

指導力のあるリーダーのいる小集団が中心となって、複数の小集団の連携が進むこともありますが、その小集団同士のぶつかり合いやもめごとも起きてきます。その全体の流れに反する子どもや下位集団も明確になって、集団の特徴もはっきりしてくるのがこの時期です。夏休み前の1か月くらいのところでしょうか。

この時期の担任は、これまで同様、学級や対人関係のルールを確認したり、活動のあり方を評価したりしながら組織づくりを行っています。

加えて、話し合いや声かけという直接的なコミュニケーションを活発に行うとともに、学級日誌や生活記録帳を通しての間接的なコミュニケーションをとりながら、生徒との個別の信頼関係を深めはじめます。

第4段階(全体集団成立期)

やがて、学級のルールが子どもたちにほぼ定着し、学級全体の流れに反する子どもや小集団ともある程度折り合いがつき、子どもがほぼ全員で一緒に行動できる状態になっていきます。2学期に入るとこういう姿が目立っていくように思います。

教師の指導スタイルが子どもに定着している状態ともいえます。すると次の課題は、教師が主導しなくても自分たちで学級を運営していける自立的な集団作りとなるようです。

担任は、学校行事や委員会活動などを子どもに任せて、主導権を子ども側に移行・委譲しはじめるのです。一歩後ろに下がるといえるでしょう。2学期にいろいろな行事が組まれているのも、このようなことと関係がありそうです。

これまでと違う個人へのかかわり方

第4段階の担任は、いろいろなことを子どもに任せるわけですが、何もしないわけではありません。生徒のさらなるレベルアップのために、より難しいことをするようです。

それは、個人の価値観に対して問題提起を行い、ゆさぶりをかけて、「学級規範の社会化と生徒各自の自己規範の相対化を行わせる」(蘭・古城, 1996, p. 102)のだそうです。

個人に対しては、その子どものあり方や物の見方、こだわりなどに揺さぶりをかけて、自己の捉え直しを迫って、個の成長を促そうとするのです。

全体集団が一定のまとまりを形成すると、役割や活動がマンネリ化して学級集団が硬直化するおそれもありますので、そこで揺さぶりをかけて弾力性を維持するのです。

周りの成長を実感する生徒

教育心理学の調査によると、「自分の周りの生徒は自分の役割を果たして協力しており、集団としても成長している」と認識する生徒は、自分の成長をも認識し、他者との相互理解を高めようとするそうです。

このことは、集団の中で自分の成長を感じられるためには、周囲の成長に目を向けて、それを実感できるかどうかが影響しているとも考えられそうです。

担任は、子どもたちの行動を肯定的に認めるだけでなく、他の子どもの成長の姿にも目を向けさせることによっても、個人の成長を促すことができそうです。

第5段階(自治的集団成立期)

この段階では、学級のルールが子どもたちに内面化され、一定の規則正しい全体生活や行動が温和な雰囲気の中で展開しはじめます。

課題に合わせてリーダーになる子どもが選ばれ、すべての子どもがリーダーシップを取りうるようになるそうです。逸脱行動には集団内で抑制するような行動が起こり、活動が停滞気味のときには、子どもたちの中から全体の意欲を喚起するような行動も起こります。言うことなしの状態です。

子どもたちは、担任の援助がなくても自他の成長のために協力できる状態になっており、これが日本の教師にとって望ましい学級集団の姿だそうです。

学級担任のお仕事

学級の発達が進むためには、担任の働きかけが必要不可欠です。そしてそれは、おおよそ1年をかけて上記のような過程で進んでいくそうです。

最近では、「1年をかけてもやっと第3段階に到達できるかどうかですね」という担任たちの声を聴くことがあります。集団づくりが難しくなっているようです。

そう考えると、第5段階に到達した学級で過ごせるということは、児童生徒にとって幸せなことなのでしょう。担任の先生たちがやっている仕事というのは、とても専門性が高いということを改めて知りました。

 

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