先生からの質問
ときどき学校の先生を対象にした研修会の講師をします。不登校に関する話や子ども理解、心理療法の内容が多いです。
質疑応答で出てくるのは、不登校の子どもに関することです。「担任として学校として子どもや家庭にどう対応すればいいでしょうか?」という質問はとてもよく出されます。
そのような質問が出されたとき、私は一般論として絵葉書の効果を伝えることがあります。「絵葉書を送ってみるのはどうでしょうか」という提案をさせてもらうのです。
絵葉書によって、個人的な細々としたつながりをつくっておくのです。それくらいの距離感の方がまずは安心できるという子どもは多いものです。
なぜ絵葉書なのか
侵襲性が少ない
侵襲性が少ないのが良いと思います。侵襲性というのは、相手が持っている心理的なウチとソトの境界線を越えて、許可なく相手のウチに入っていくことです。
侵襲性が高いことをすると、相手は防衛的になりこちら側に対する抵抗が強くなります。ネガティブな気持ちも高まりますから、結果的に信頼関係を築くことは難しくなってしまいます。
学校でよくやられている家庭訪問は、ときに侵襲性の高いかかわり方になってしまいます。それに比べると絵葉書は侵襲性が低いものです。絵葉書の方がより安全性が高いと思います。
負担が少ない
この場合の負担というのは、教師側にとってもクライエント(子どもや保護者)にとっても、という意味です。
絵葉書には宛名を書く面と絵が描かれている面があります。そして、文字を書くスペースは宛名の下の方に数行分しかありません。
ですからたいしたことは書けません。エピソードを一つ書くくらいでしょう。そのため書く側にも読む側にも負担が少ないのです。10分程度で完成させられます。
継続しやすい
負担が少ないということは、継続しやすいということにもつながっていきます。絵葉書は1回書いてもほとんど意味がありません。継続していくと、じわじわと効果が出てきます。
ですから継続可能性を高めるためにも負担が少ない方が良いのです。
残る
残るのも良いと思います。ある時、絵葉書を送り続けて、やっと家庭訪問が許されたことがありました。その子の部屋に通されたのですが、机の上には私がこれまで送った絵葉書がずっと並べられていました。とても大切にされているので感動した覚えがあります。
子どもに会えない時でも、保護者から「先生からの手紙を子どもは大切にしています」という話を聞くこともあります。
大学生の不登校の学生にも同じように絵葉書を送り続けたことがありましたが、この学生は、私からの絵葉書を壁に掲げていました。
それを見たこの学生の友人が「ここまでやってくれる大学の先生なんていないんだから、お前学校に行けよ」と言ってくれたようで、それをきっかけにして登校を再開し、この学生は卒業していきました。
残るのはいいですね。それが目に見えて増えていきますから、おのずと関係は強くなっていきます。
絵葉書を送る理由
先生の中には、絵葉書を送るのは、学校に登校させるためであると考える人がいます。もちろん、結果的に登校に結びつくことはよくありますが、そうではないのです。
絵葉書を送る理由は、あくまでも子どもや保護者を支えるためです。絵葉書を送り続けることは、ほとんどの場合相手の心を支えます。それは間違いないのないことです。しかし、それが登校に結びつくかどうかといったことは分かりません。
結局登校しなかったけど、あの絵葉書でずいぶんと救われたという話を聞くこともまた多いものです。「たとえ登校に至らなくてもそれでいいのだ」といった割り切りも必要になると思います。
不登校になると、ときに世間から見捨てられたような気持になりますから、一枚の絵葉書、それも担任からの絵葉書というのは、子どもをそして保護者を強く支えることになります。
ポイントは
絵に語ってもらう
絵葉書では、どのような絵が描かれているかというところが一番重要です。相手の年齢や性別、好き嫌いといったことを想像して絵を選ぶ必要があります。
中学生にアニメのキャラクターは幼すぎるでしょうか。かといってあまりに大人びたものやシブイ絵も敬遠されるでしょう。
ずっと引きこもっている人に元気いっぱいの絵を送るのもしっくりこないかもしれません。リアルな写真よりも絵の方が、遊び心が多くて良いような気がしています。
おしゃれで落ち着きがあって、なんとなくかわいげもあったりするような絵が良いと思います。相手を想像しながら相手にしっくりするような絵を選ぶしかないと思います。
自分の感覚を信じて「素敵だな」と思う絵であれば大丈夫でしょう。絵葉書を選ぶ時間は、選ぶ側も楽しくなります。
書く内容
「何を書いたらいいですか?」という質問が出ることがあります。書くのは個人的な内容が良いと思います。書く側の何気ない日常、趣味、好きなこと、入ったお店、買ったもの、失敗談、日曜日の過ごし方など、本当にどうでもいいことが良いと思います。
学校のこと、行事のこと、級友のことなどは控えた方がよいでしょう。そういう話は子どもや保護者にプレッシャーを与えるだけになりがちです。
むしろ、書き手の人柄がにじみ出るような内容が良いです。それが、「この先生はどういう先生なのだろう?」と読み手の想像力を刺激しますし、安心して読むこともできます。
書く頻度は?
あまり頻繁に書かない方が良いと思います。書く方も読む方も疲れてしまいますからね。1か月から1か月半に1回くらいのペースでいいのではないでしょうか。50日に1回くらいですね。
「忘れたころにやってくる」くらいの間隔が良いと思います。このくらいが新鮮ですので、関係性の鮮度を保つように思っています。
これでも年間で7、8回にはなりますから、それくらいでいいのではないでしょうか。とにかく書く側が負担を感じない程度が良いです。
保護者も読んでいる
必ず保護者も読んでいるということを想定しておかなければなりません。絵葉書を送るということは、保護者にもオープンであることは前提です。
家のポストを確認するのは保護者であることが多いですから、保護者が先に読むことが多いものです。それは保護者支援にもつながります。
保護者も傷ついていることが多いので、やはり侵襲性の少ない絵葉書は安心できると思います。
返信はない
返信がないのも覚えておいてほしいと思います。返信は期待できません。それでいいのです。一方的なかかわりですから。
保護者の中には、返信を書きなさいと言ってくれる人もいますが、私はそれはしないでよいと伝えています。
子ども本人が書きたいというのであれば止めませんが、読んでくれているのであれば、それだけで十分である、という心持の方がお互い楽でしょう。
最近は
このような話を20年くらいしてきましたが、実際にやってくれる先生はほとんどいませんでした。しかし、ここ2年くらい、これをやってくれている先生が立て続けに複数人出てきております。なぜかは分からないのですが。
そして、結果は登校再開につながっていることが多く、絵葉書の効果を改めて実感しています。
