場面緘黙
時々、場面緘黙の子どもと会うことがあります。場面緘黙というのはある場面では全く話さなくなり、表情も硬くなってしまう症状です。
安心できる場所、たとえば自宅では元気いっぱいでうるさいくらい話すのに、学校に行くとまったく話さなくなります。「どうしてお話ししないの?」と親が尋ねても、本人は「わからない」と答えるばかり。自分でも声を出そうと思うのですが、どうしてもできないようです。
先生が家庭訪問をしたときは、平気で話せる子も少なくないですから、先生との関係性が問題ということでもなさそうです。先生にとっても保護者にとっても「なぜ?」と思うような子どもの症状です。
非言語のコミュニケーションを豊かに
こういう子には、励ましたり怒ったりして無理やり話をさせようとするのは逆効果になることが多いようです。無理や焦りは禁物です。最初からあきらめるのもどうかと思いますが、話をさせてみようとある程度頑張ってもうまくいかないようであれば、違う関わり方を考えた方が良いでしょう。
目指すのは、言語的コミュニケーションではなくて、非言語的コミュニケーションです。非言語的なコミュニケーションが豊かになっていくこと、つまり表現が豊かになっていくことを目指して関わることが、子どもの心をやわらかくするヒントになるでしょう。
伝えたい気持ちを育む
非言語コミュニケーションには、作業が伴った活動をするのが良いと思います。場面緘黙の子は比較的年齢は低いと思いますので、そのような子たちが遊べるようなモノを使います。
折り紙、粘土、絵、ボードゲームあたりが定番でしょうか。そういうものを使って何か作業をしながら一緒に遊ぶという感じが、非言語のコミュニケーションとなります。
「粘土って好き?〇〇ちゃんはどんなフルーツが好き?」(子どもは答えないので、しばらく答えを待って)。「私はバナナが好きなんだけど、〇〇ちゃん、粘土でバナナを作らない?」などと誘いながら、一緒にバナナを作るのです。
そうやって関係を作るなかで、子どもが「くすっ」と笑ったり、「あー(そうか!)」と感心したりする場面が生まれてくることを目指します。
「伝えたい思い」がないと言葉にはなりません。その伝えたい思いを育む前から話をさせようとすると、ますます話さなくなってしまいます。ですから、まずは「何かを伝えたい」と子どもが思うような場面を作ることを目指します。
それは、遊びの中で自然な流れで言葉が出てくればいいな、と願いながら会う感じになると思います。そのとき出てくる言葉は、「あー!」とか「ふぅーん」とかですが、それだけでも十分だと思います。
支援者も楽になる
「非言語的コミュニケーションを豊かにする」という方に舵を切ったなら、その子どもに関わる支援者たちも、安心してその場にいられるようになります。
話をせず無表情の子どもに関わるということは結構大変なことです。かかわりのツールである言葉を使えないので、支援者もどうすればいいのか分からなくなるのです。そうなると、二人の間の空気が固まってしまい緊張感が高まってしまいます。
当然ですが、二人の間の空気が緊張で固くなってしまうと、話をしようとする意欲などなくなってしまいます。そうならないように支援者は頑張るわけですが、結果的に支援者だけが話をして何とか場をつないでいるという状況になりかねないものです。
そうならないために、まずは子どもと支援者の間の空気が柔らかくなるように、間に作業(あそび)を介在させるとよいでしょう。話などせず黙々と一緒に折り紙を折るという場でもまずはいいのです。
気持ちを共有するまでのルート
「場を共有すること」が「活動を共有する」」ことにつながり、活動を共有することが、次の「話題を共有する」につながります。そして話題を共有することが、「気持ちを共有する」に高められていきます。
自然の流れで気持ちを共有できるようになるまでのルートは次の通りです。
「場の共有」→「活動の共有」→「話題の共有」→「気持ちの共有」
ですから、まずは「一緒に活動できる」を目標にするのがおススメです。