親子の間に陣取るスマホ
あるショッピングモールでほんやり座っていたときの話。ある二組の母親と幼児が、それぞれ自分から見て右側の席と左側の席に座りました。この二組の親子は全くの他人同士です。幼児の方はともに1歳くらいでベビーカーに乗っていました。
右側の親子の様子
右側の幼児は目の前にあるカラフルなストローに興味があるらしく、しきりに手を伸ばしていましたが、なかなか届きませんでした。それに気づいた母親は、すぐにそのストローを手渡してあげました。赤ちゃんはそれを熱心に眺めた後、母親に向けてストローを突き出して足をバタバタさせていました。母親は、やや大げさな表情と口調で、「〇〇ちゃん、これが好きなの?ストローっていうんだよ、きれいな色だね!」といって子どもを見つていました。子どもは満足げにストローを置いて、さらにあたりを見回して、さらなる探索を始めました。
左側の親子の様子
左側の幼児も同じようなことをしていました。小さなおもちゃに興味があるようで手を伸ばしていたのですが、あやまってそれを床に落としてしまいました。ベビーカーの下をのぞきこんでいる赤ちゃんに気づいた母親は、一度スマホから目を離し、それを拾って手渡し、またすぐにスマホの世界に戻っていきました。幼児はそれを眺めたり口に入れたりした後、このおもちゃを見てほしいといったように、母親に向けてアピールしましたが、スマホに夢中の母親は、子どもにチラッと目を向けて頭をなでただけで、またスマホの世界に入ってしまいました。幼児はしばらくおもちゃをいじっていましたが、その後はぐったりとして、ぼんやりとあたりを眺めているだけでした。
情動調律ということ
二人の赤ちゃんはそれぞれ違ったことを学んでいるようでした。ストローの親子の間では情動調律ということがなされていたと考えられます。情動調律(affect attunement)とは、言葉を話せるようになる少し前の幼児と養育者との情緒的な相互交流パターンのことをいいます。これは、幼児の示す感情体験に養育者が共鳴して、その幼児の表現を自動的にほかの表現型に変換することによって、幼児の行動の背後にある内的感情を幼児に映し返すようなかかわりのことをいいます。
具体的に言うと
幼児がストローを母親に突き出した時に、母親が自分の動作や表情そして口調を大きくしながら「これが好きなの?」「きれいだね!」とおおげさに返したわけですが、これが幼児とは違う表現型に変換したということです。幼児がなした表現以上の表現に変換することによって、養育者は幼児の内的感情を大きく映し返し、幼児は自分のこの主観的な感情が”好き”であるとか”きれい”という言葉と結び付けて学びやすくなるわけです。そして、この主観的な感情は他者と共有できるということも学んでいくと考えられています。
情動調律の失敗
おもちゃの幼児の場合は、情動調律による学びの経験をこの時は逃したということになりそうです。もし、このような親子のかかわりが頻繁になされるのであれば、この子は自分の気持ちを知る、自分の気持ちを他者と共有するということが難しくなってしまうかもしれません。さらにこの後、この子が動画の視聴ばかりするようになってしまうと、さらに情動調律の機会は失われ、自らの感情状態に着目したり、気持ちを他者と共有するスキルのようなものを学び損ねてしまうでしょう。
まとめ
以上のことは、ほんの短時間に、そして単発として起こったことですから、これによって、二人の幼児に大きな影響があるとは思えません。ただ、スマホが親子の間に陣取ることで、何かよくない影響がある気がして心配になった出来事でした。
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