就職活動
就職活動は大学生にとって大きな仕事です。自分のしたい仕事がはっきりしていたり、自分の強味を十分に生かせる仕事を目指しているような場合、悩みはまだ小さいかもしれません。しかし、多くの学生たちは、いよいよ就職活動をする、となってから慌てて悩みはじめます。
エントリーシートを書いて、いろいろな側面から自分のことをとらえ直さなければなりません。就活をするようになって、はじめて本気で「自分」というものを見つめ直した、という学生も少なくありません。
ですから、なかなか内定が出ないというのはとても苦しいことです。自分が全否定されたような気持になるでしょう。そんなことは全くないのですけど、そう思うのも無理はありません。
ある男子学生
ある男子学生のことを思い出します。彼は小さいころから人間関係が上手ではなく、少数グループの中でそれなりに生きてきたということです。covid-19のせいでほとんど大学に行けず、結局、友だち関係が広がることもなく大学時代が過ぎていました。そして、就職活動です。
どうすればいいのかととても悩んでいました。何から手をつけていいのか分からないのです。こういうのは、友だちの様子を横目で見ながら、だんだんと自分も準備を整えていくものですが、そういうネットワークも機会もなかったのです。
コロナの時に就職活動をした学生さんたちは、多かれ少なかれ、このような苦労をしたことでしょう。
その学生は、親の勧めで大学の就職サポートセンターに行きました。サポートセンターでは、エントリーシートの書き方や就職セミナーの案内など、いろいろな助言や情報をくれました。
この学生の力
この学生は何度もセンターを訪れ、相談員の人に気持ちを打ち明けていました。大学の指導教員の先生にも相談していました。自分のことや自分が不安に思っていることなど、ちょっと就職とは関係のないことも話していたようです。
幸いこの学生は、「いろいろな人に相談に乗ってもらう力」がありました。自分にあまり自信がないので、いろいろな人に相談できるのです。そして、素直に助言を聞いていました。
大学で募集する学生アルバイトにも積極的に取り組んだりして、仕事をするということを学んでいるようでした。あのころは、アルバイトもなかなかなかったですから。
この学生は、時間をきっちり守り、仕事ぶりは真面目で、大学職員からも信頼を得ていきました。大学入試などのアルバイトがあるときは、大学の方から直接連絡をもらうようにもなっていました。こうして「自分の良さ」というものを少しずつ学んでいるようでした。
でもなかなか決まらない
でも就活は苦戦していました。そのたびにセンターに相談に行って悩みを聞いてもらっていました。ハローワークに行ってみることを勧められましので、素直にハローワークにも行ってみたそうです。
ハローワークにて
ハローワークでは、就活を目的とした若い学生を相手にすることは意外と少ないそうです。ですから、ハローワークの職員の人たちも新鮮だったのでしょう、この学生に懇切丁寧にエントリーシートの書き方や就職先を紹介してくれました。
そうやって、就職先を探しながら、やっと一つ内定をもらいました。
ひょんなことから
彼は、内定が一つ決まったことを、ハローワークや就職サポートセンターに報告に行きました。「良かったね」、「がんばったね」、「おめでとう」などと声をかけられたそうです。こういうところからエネルギーをもらえるのもこの学生の力だと思います。
そして、センターで「そういえば、こういう会社から学生を推薦してほしいと言われているけど?」と言われて、ある会社を紹介されました。そのころには、自分の向き不向きがというものをある程度理解し始めていたので、その会社の情報を見てピンとくるものがあったそうです。
条件もなかなか良く、大学の指導教員にも相談したところ、「この会社は良い会社だと思う」と言われて、チャレンジしてみることにしました。
運を手繰り寄せる
今、彼が働いているのは、この最後に紹介された会社です。彼は両親だけでなく、就職サポートセンターの相談員、大学の指導教員、ハローワークの人たちといろいろな人の力を借りて、自分に合った職場を選んだようでした。
この学生は、悩んだり落ち込んだりしながらも、人に相談できる力、助言に従ってみる力といった自分の力を最大限に使って、この会社との縁を手繰り寄せたように思います。そして、彼の話を聞いていると、カウンセリングでクライエントさんが元気になっていく様子と重なるところがあります。
とくに、内定を一つもらえて余裕が出てきて、そんな折に、ひょんなことから吉報のようなものが舞い込んでくるところは、カウンセリングでもよく起こります。そんなときは「そのご縁がピンとくる」のです。
これまでとちがった新しい世界が切り開かれていく「時」というのは、冬が過ぎて雪解けまぢかの雰囲気を感じたところに「ふっ」とやってくるように思います。カウンセリングもこういう感じで展開していくこともあるのですが、そういうとき、私は「この人の潜在的な力が運を手繰り寄せたんだな」と感じます。
人生の冬の時代に、腐らず自分の力を使って何とか切り抜ける先に、幸運は舞い降りてくるように思います。