話題の方向
クライエントさんの話は、話題の矛先が「自分」に向かう場合と「相手」に向かう場合の二方向を考えることができます。われわれカウンセラーは、その方向に沿って傾聴することが基本になります。
しかし、その方向を転換することによって、カウンセリングがぐっと充実したものになることがあります。
話題の矛先が自分に向いている時
「ネガティブな話題」が自分に向くことがあります。「自分の育て方が悪かった」、「自分があの時あのような失敗をしたのが悪かった」といって、ネガティブな内容の矛先が自分に向かっているのです。”ネガティブな今”の原因は自分にあるという考え方です。
このような話をずっと聞いていっても、クライエントさんの話はこのまま続いていくかもしれません。話が好転していくならよいのですが、クライエントさんはこの状態から脱したいと思ってカウンセリングに来ているのではないでしょうか。
ですので、ここから抜け出す方向に向けて話を展開したいと思うこともあります。N(否定文)をP(肯定文)にするのです。
NからPへ
このような場合は、「なにも事態を悪くしようと思って行動していたわけではないでしょう?」という方向で話を聞くことができると思います。
そうならざるを得なかった事情もあれば、その時のクライエントさんなりの願いもあったでしょう。その時は最善の行動だと判断してその選択になったはずです。そのような事情を汲みながら丁寧に聞きたいところです。
ちょっとでもその事情や願いに共感できるところがあれば、その話をもっとよく聴いたり、その時のクライエントさんの願いを訊いたりするのです。すると、そのように行動してきた理由のようなものが明確になって、少し語り口が穏やかになることがあります。
やり方は悪かったかもしれないが選択した方向は悪くなかった、と思いなおしてくれることもあります。
そのようなところに焦点づけることによって、ネガティブをポジティブに変えるような話の聞き方があるかもしれません。
話題の矛先が相手に向いている時
「子どもがゲームをやめない」、「部下が言うことを聞かない」などといって、矛先が相手に向かう場合もよくあります。このような場合は、その相手に対して、自分はどのように考えて、どのようにかかわっているのか、というところに矛先を変えることができるでしょう。
相手ではなくその人自身の問題にしていくのです。
その人自身の問題に
「そのような難題に対して『あなたは』どのように対応してきたのですか?」と質問をしてみるのがよいでしょう。こうして、「相手が」を「自分は」に変えていけるようになると、クライエントさんなりの工夫や知恵を働かせていることが明らかになることがあります。
そしてそこを丁寧に聞いていくのです。そうするとより具体的に身近にクライエントさんの行動を対象にして、どうすればよいだろうかということを考える方向に進められる確率が高まります。
そうして、例外的にクライエントさんのやり方がうまくいった場面なども思い出せるようになると、解決の方向性が見えることも少なくありません。
ノリがエンパワーに
そのようにして”クライエントさんの主体性がどのように発揮されていたのか”を引き出していきたいと思います。そのような会話がうまくいっているかどうかは、クライエントさんが”乗ってくるかどうか”にかかっています。ノリが大切です。乗ってくると、それはエンパワーにつながっていきます。
クライエントさんが「してきたこと」や「していること」に話題の方向を変えられると、クライエントさんの満足感も高まります。