カウンセリング中の会話
カウンセラーは、クライエントが語る内容を傾聴します。例えば「息子が登校を渋って困っている」、「気分が落ち込んで家から出にくい」などです。
クライエントの人たちは、まずざっくりとした内容を語るものです。ですからカウンセラーは、事態をよく理解しようと思ってその詳細をいろいろと尋ねます。
「それはいつからですか?」、「何か思い当たるきっかけのようなものはありますか?」、「ご本人は何と言っているのですか?」などです。
さらに問題を語る
そんな話をしながら、クライエントは「リストカットもしている」、「多量服薬をしてしまった」といった、もっと深い話を開示してくれることもあります。
このような会話が続くことによって、何らかの元気が出てきて、リストカットはやめよう、多量服薬はもうしない、という気持ちになるのならよいのですが、そのまま時間切れで、苦しい胸の内を深堀するだけで終わってしまう、ということがあります。
システムズアプローチ
それはそれでやむを得ないと考えることもできるでしょう。誰にも言えないことが言えたのですから。そして、確かにクライエントさんたちもそのように語ってくれることが少なくありません。「誰にも話せないようなことを話せてすっきりした」と。
しかし、それでは何も解決していないのではないか、と考えるカウンセラーもいます。そういう人には、システムズアプローチという考え方が有効かもしれません。
「問題ばかりの会話」の問題性
クライエントは問題を語り、カウンセラーはその詳細を尋ねることによって、会話が問題をめぐる話題ばかりになってしまうことがあります。システムズアプローチでは、このような状態をセラピストとクライエントが一緒になって「問題持続システム」を構築していると考えます。
いつまでもクライエントの問題にこだわることによって、会話が問題をめぐるキャッチボールのようになってしまって、結果的に問題を持続してしまっている、という考え方です。この場合、カウンセラーは問題を持続させるシステムの一翼を担ってしまっているわけです。
解決への道
クライエントは、問題を解決したいはずです。そして、システムズアプローチにおいて問題を解決するということは、具体的には、カウンセラーとの会話が問題をめぐる話題から離れて、何らかの違う語り口になっていくということです。
それは、問題に対する意味づけが変わったり、新しい方向性を見出せたりすることによってかなえられます。
そのようなものを探ることによって「問題持続システム」を破壊しようとするのです。ですから、いつまでもクライエントの語る問題にはこだわりません。
内的世界?
そして、もう一つの特徴は「クライエントの内的世界」のようなものを想定しないことです。「内的世界」など誰にも分かりませんし、「内的世界」など想定しなくても問題は解決するし、クライエントはカウンセリングサービスを受けて満足できると考えます。
考えるのは、問題持続システムから抜け出す糸口を、クライエントとの会話を通して、できるだけ早く見つけ出すことだけです。
「早く」と「ゆっくり(丁寧)」は両立する
できるだけ早く糸口を見出したいのですが焦ってはいけません。問題を解決しようと思って、いきなり「もし、問題が解決したとして、どんなことがまず最初に起こってくると思いますか?」などとブリーフセラピーのように尋ねても、クライエントは乗ってこないでしょう。
丁寧に話を聞くということについては、以前、「話題の向きを変える」、「最初に見極めたいこと」、「『普通のことだよね』という介入」、「すぐに分かってはいけない」などで書いてみました。
上記のような心持ちで、慌てずにゆっくりと(丁寧に)話を聞くことが、結果的に早く糸口を探ることになります。急いではいけません。
カウンセラーが変わる
カウンセラーが「問題持続システム」の一翼を担わないようにするためには、カウンセラー自身が、クライエントとの相互作用の在り方を変えなければなりません。
つまり、問題ばかりに焦点を当てて質問したり、問題を形成する内的メカニズムを想像したりすることをやめて、クライエントとの相互作用に焦点づけて、そこを変えていくことに集中するのです。
カウンセラーがダイレクトに変えられるのは、クライエントとの相互作用のところだけです。そう割り切って、「今ここ」の相互作用に全集中し、その在り方を変えることによって、クライエントの語り口が変わり、問題に対する認識が変わり、何か新しい意味が見いだされるようになることが、システムズアプローチの目指すところです。
こうすることによって、カウンセリングは結果的に短期間で有益な結果を生みだします。短時間で何らかの結果を出したいスクールカウンセラーにとっては、なかなか魅力的なアプローチだと思います。