漢字にふりがなの作文

スクールカウンセリング

教室観察?なにが求められている?

 小学校でスクールカウンセリングをするとき、出勤してすぐに「教室で〇〇さんを観察してください」などと依頼されることがあります。授業中の様子を観察するのですが、〇〇さんの情報を何も得られないまま、とにかく教室に行くこともしばしばあります。はて、何を観察すればいいのだろう。いつも不安になります。

作品を見る

 小学校では、遠足、理科の観察日記、運動会など、行事ごとによく絵や作文を描きます。この絵や作文がいろいろなヒントを与えてくれます。これはとても参考になります。全員の作品群と見比べながら〇〇さんの絵の特徴をとらえることができるからです。

その子らしさを探す

 といっても、なかなか難しいものです。作文では、学年相応の字が書けているか、字はノートのマス目の中に書けているか、描いている内容はほかの子どもと比べて特徴があるかなど、いろいろと探します。

 自分のことはさておき、運動会での兄の様子を熱心に書く子や、徒競走で1位になれなかった悔しさを書く子、3位だったけど去年より順位が上がったと満足する子など、様々です。何となくその子らしさが出ています。

A君のこと

 ある小学校4年生A君を教室で観察してくださいと言われました。このA君がなぜ観察の対象になっているのかは分かりませんが、とにかく教室に行ってみました。A君は教室ではまじめに勉強をしていますし、近くの子どもたちとの関係もよさそうです。観察をする限り、全く問題を感じさせません。

真実は細部に宿る

 幸い、教室には子どもたちの絵と作文が掲示されていました。

 A君は「合唱コンクールの思い出と成果」という作文を書いていたのですが、このテーマが非常に特徴的でした。「成果」まで書くのは珍しいですが、それだけでなく、すべての漢字にフリガナがふられているのも特徴的でした。フリガナを書いている子などはほかにいません。

 どうしてフリガナまで書かれているのでしょうか。漢字で書くだけでは収まらず、さらにフリガナを追加したのでしょう。ちょっと考えすぎというか、過剰な感じがしました。漢字を書くだけでは安心できず、さらに追加したのかもしれない、などと想像しましたが、真相は分かりませんでした。

放課後、担任の先生と

 なぜ、A君が観察対象になったのでしょうか。学校では元気そうなA君ですが、どうやら、毎朝、家では登校渋りをしているそうです。それを心配したお母さんから連絡があって、スクールカウンセラーの教室観察となっていたそうです。

 A君は、「学校に行って嫌なことがあったらどうしよう」、「ミスをして怒られたらどうしよう」という不安が強くあって、そのために登校を渋っているようでした。これまではそんなことはなかったそうですが、最近、急に怖がりになったとお母さんは話されていたそうです。

 フリガナをふる過剰さは、どこまで考えればいいのかが分からなくなって、考えすぎてしまうA君の心の動きがよく表現されているように思いました。

自我体験

 10歳前後の子どもは、自我体験という体験をすることがあります。脳が急速に発達して、あることないこと、いろいろと想像して考えられるようになっていくのですが、そうすると「どうして私はあの人ではなく私なのか」、「人は死んだらどうなるのか」、「もし死んでしまったらどうしようか」など、抽象的な問いが頭の中を占めてしまうのです。

 自分はたった一人の自分として生きている、人間は一生たった一人で生きていくのだ、などということを強烈に感じてしまい、ものすごく怖がりになって、泣いてしまうほどの心細さを感じる子もいます。

 急速に自立心が高まっているのかもしれません。このような体験はだいたい一過性のものなのですが、こういう体験をA君もしていたのかもしれません。

A君に対して

 こういう話でしたので、A君の登校しぶりを「自我体験による不安症状」と見立てて、しばらく背中を押して登校を促してみてはどうでしょうか、と担任を通してお母さんにアドバイスすることにしました。こういった経験は、記憶を上書きすることで収まっていくものです。

 「朝は怖かったけれども登校したら何ともなかった」ということを繰り返すのです。そうしてしばらくすると、元の平気な心に戻っていきます。A君も2週間ほど苦戦した様子でしたが、いまではすっかり良くなっています。

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