スクールカウンセラーの磁場

スクールカウンセリング

スカート切り裂かれ事件

 ある時、スクールカウンセラーとして勤務している中学校で、一人の女子生徒のスカートがカッターのようなもので切り裂かれるという事件が発生しました。不審者を目撃した人はおらず、おそらく、校内の誰かがやったのだろうということで、いろいろと調べました。しかし、結局、犯人は見つかりませんでした。その後はこのようなことは起きなかったのですが、何とも苦い経験となりました。

どうしてあの子が?

 被害に遭った生徒はとても優秀で、人望も厚く、男女分け隔てなく誰とでも付き合える生徒だと、生徒も先生も話していました。そのため、あの子がなぜ?と思われるような出来事でした。しかし、スクールカウンセラーの私は、”何か引っかかるな”と感じていました。実は、この事件が起こる3~4週間前から、私は、被害生徒のことを「最近、この子をよく見かけるな」と感じていたからです。はっきりと感じていたわけではありません。この一件を聞いたときに、「そういえば、最近よく見かけていたな」と思い出したという感じです。私が廊下を歩いていると、なぜかその子をよく見かけましたし、私のところによく来る生徒たちと一緒にいたりもしました。そのときは、「あんな子がいるんだな」という程度の認識で、それ以上何かをするということはありませんでした。

スクールカウンセラーのいる場所

 学校は中心に円があって、それが外に向かって広がっているように感じることがあります。中心の円には学級があり、先生や子どもたちが授業をしたり給食を食べたりしています。その周辺に特別支援学級や保健室があり、さらにその周りに、スクールカウンセラーや支援員さん、用務員さんがいるという印象です。スクールカウンセラーは中心から一番遠いところにいます。実際、スクールカウンセラーのいる相談室は、教室からは遠い、校舎の隅っこにあることが多いものです。物理的な場所が教室から遠いというだけでなく、心理的にも教室からは遠いところにあると思います。ですので、多くの生徒にとっては、自分の生活圏の中に相談室は入っていないと思います。そういう場所がスクールカウンセラーのエリアです。

気になる子を伝えてみると

 そのようなエリアの住人であるスクールカウンセラーにとって、目につく子というのは、教室では居心地が悪かったり、息苦しさを感じている子であることが多いのかもしれません。教室にいたくなかったり、なんとなく居ずらい場合、スクールカウンセラーのエリアに入ってこざるを得ないのでしょう。そんなことを感じていますので、私はちょっと気になる子や、なにか引っかかる子については、担任の先生や生徒指導の先生に伝えることにしています。もちろん空振りの時もあるのですが、「え!どうしてですか?私もそう思っているんです」と担任の先生から驚かれることもあります。担任の先生は気づいていなかったけど、それを伝えた直後に、その生徒が不登校になってしまった、ということも何度か経験しています。

専門的不適応の磁場

 スクールカウンセラーとして働くことは、意外と心理的には大変なものです。月に数回程度しか勤務できませんので、毎日学校で過ごす人たちとは何かズレてしまっているのです。お客様ではないけれどお客様的であり、つねにアウェーのなかで仕事をしている感覚です。オドオドと不適応感を抱えながら働いているのです。それを専門的不適応と名づけることができそうですが、そのような不適応を抱えたスクールカウンセラーは、単にカウンセリングをするだけが仕事ではありません。スクールカウンセラーは、子どもたちの不適応感を察知しやすい立ち位置におり、自らも不適応感を抱えながら勤務していますので、そういう子どもたちを引き寄せる磁場になっているのだと思います。そういう意味では、スクールカウンセラーは、学校の中では独特な役割をもっているのだと思います。

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