キリンちゃん
キリンキリンという名でこれを書いています。ですから、スクールカウンセラーをしているときは、先生からも子どもたちからも「スクールカウンセラーのキリン先生」として知られています。
しかし、20代の若いころの私は、子どもたちから「先生」とよばれることはめったになく、「キリンちゃん」と呼ばれていました。
子どもたちが私をそう呼んでいるのを聞くたびに、先生たちは「キリンちゃんじゃないでしょ、キリン先生と呼びなさい!」と「先生」をつけて呼ぶように言い直しをさせていました。
子どもたちもそのときは「キリン先生」と呼びますが、すぐにいつも通りの「キリンちゃん」に戻っていました。相談室にはたくさんの子どもたちがきて、おしゃべりをしたり、ちょっとした相談を打ち明けたりしてくれていました。
学校になじむキリン
当時は週に2回ほど、同じ学校で勤務していましたので、次第に先生たちとも打ち解けていきました。私も独身でしたので、勤務を終えた先生たちと飲みに行ったり、時には終電を逃して、先生の家に泊めてもらったこともあります。先生の自宅に泊めてもらうスクールカウンセラーなど普通はなかなかいないでしょう。
先生たちの人柄もよく知りるようになり、互いに友だちのようになって、私は学校に行くのがとても楽しみで充実していました。自分が学生時代に戻ったような気持だったかもしれません。
「キリン先生」へ
先生たちも私を信頼してくれましたので、情報交換もスムースに進みました。学校の中でも居心地がよく、私は自分を「スクールカウンセラーとしてなかなか有能ではないか」などと思い始めていました。
そんな様子を子どもたちも敏感に察知したのでしょうか、私を「キリンちゃん」ではなく「キリン先生」と呼ぶ子が増えていきました。それを私は「先生として認められてきたのだろう」と思い、そんなところに喜んでもいました。
ところが
しかし、そのころから、一人また一人と、相談室に来る子が減っていきました。相談室にいる子どもたちも、だんだんと元気がなくなり、おとなしくなっているように感じ始めました。
ちょっと様子がおかしいなと思ったころには、相談室にくる子は激減していました。何か良くないことが起きていると思って、大学時代の恩師のところに行き、事の次第を相談しました。するとずっと静かに聞いていた恩師は一言、「お前はいったい何をしているんだ?」でした。
先生になってどうする?
恩師が言いたかったことは、「お前はカウンセラーだろう?先生になってどうする?学校の真ん中で元気よく働いているお前は、相談室にくるような子どもたちにとっては、近づきがたい存在になっているかもしれないぞ」と、こんなことだったと思います。
他のベテランスクールカウンセラーにも相談しました。「教室で居づらかったり、友だちが少なかったりする子は、教室に居場所がなくて、校内をさまよっていることがある。キリンさんは、そんな子たちの居場所になっていたと思うけど、だんだんと先生のようになって、近づきがたい存在になったのかもね」ということでした。
思い当たる節がありますので、反省しました。
職員室前の廊下
確かに、職員室前の廊下には、教室に居づらかったり、教室に安心感を持てない子が、用事もないのに何気なくやってきて、休み時間などを過ごしていることがあります。
このような子たちを支援しようとするのですから、スクールカウンセラーは、先生とちがって、やや不適応を生きるくらいがちょうどいいのかもしれない、と思うようになりました。これが正しい理解なのかはわかりませんが、今の私の到達点です。
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