あるクレーム
スクールカウンセラーをしています。学校で勤務していると、モンスターペアレントと言われる保護者とも面接をすることがあります。本人自身が「私は先生たちからモンペ(モンスターペアレント)だと思われていますから」と自己紹介する人もいます。(以下の事例は、本で読んだ短い事例を私なりにリアリティのある形にストーリー化している仮想事例です。仮想事例ですが似たようなケースはよくあります)。
席替えをやり直してください!
ある日の放課後、保護者から一本の電話が入ったそうです。内容は、「今日、席替えをしたそうですね。うちの子が、隣の子がいやだというので、席替えをやり直してください!」という訴えでした。担任の先生としては、ある一定のルールの下で公正に行ったので、一人の子どもが嫌だというからといって、席替えをやり直すことなどできないと考えていました。当然だと思います。職員室でもどのように対応するかが議論されました。「保護者のニーズはくんだ方がいいのではないか」、「でも、席替えをやり直すとして、どのような理由で子どもたちに納得してもらうか」、「いやいや、そんなわがままを聞いていたら学級崩壊ですよ」など、いろいろな意見が出たそうです。そして、「この保護者がスクールカウンセラーと話したいそうなので会ってください」と頼まれました。私はよくわからないまま、保護者と会うことになりました。
保護者の言い分
保護者の方に会ってみました。鼻息荒く恐ろしい形相でやってくると思っていましたが、そのようなことは全くなく、むしろ疲れている様子でした。この保護者は、「自分はモンペのようなことをしている」と話しており、保護者自身も傷ついているように思われました。話を聞いていくと、この保護者のお子さんは、少しこだわりの強いところがあって、席が気に入らないということがいつまでも気になって、家でかんしゃくも起こしていたようでした。挙句の果てには、「もう学校には行かない!」と言うので、それをなだめるために、もう一度、席替えをやり直してもらうように先生に掛け合ってみる、ということになったそうです。
保護者と話してみると
私が「隣の席の子がいやで、今の席が気に食わないのですか?」と尋ねると、実は隣になった子は仲良しのはずとのこと。保護者もなぜ、その子がいやなのか分からない様子でした。話がよく掴めませんでしたので、子どもが冷静な時に、もう一度、どうしていやなのかを確認してもらうことにしました。少なくとも、スクールカウンセラーと保護者の間では、席替えをしてほしいのではなく、わが子のこだわりの強さに困っている、というところを共有した面接でした。そして、席替えのやり直しはしない、ということで了解してもらえました。
話をもう少し聞いてみると
次の面接では、子どもの気持ちが分かりました。この席替えは、進級して一番最初に行った席替えだったようですが、席替えの仕方が前年度の担任と違っていて、それがこの子は気に食わなかったようでした。隣の子が嫌だとのは、その時のいらだった気持ちの中、理由をつけるために思わずそういう理由にしてしまったということです。そこで、次の席替えでは、先生と子どもとで一緒に席替えのやり方を決めるということで、ことは収まりました。
”wantレベル”と”needレベル”
表面的に聞くと、この保護者の申し出は確かに理不尽でした。しかし、その背景には、わが子のこだわりの強さに対する疲弊がありました。子どもの方にも、席替え方法の違いが気になって仕方がなかったという理由があったようです。席替えをしてほしいという背景まで聴いていくことによって、本当の気持ちにたどり着くことがあります。私は、この表面的な欲求をwantレベル、より深いところにあるものをneedレベルと考えています。「席替えをやり直してほしい」はwantレベル、「こだわりの強さをどうにかしたい」「席替えのやり方の違いについて説明してほしい」というのがneedレベルということです。スクールカウンセラーの傾聴は、来談者のneedレベルを理解しようとしてなされていることが多いものです。
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