「抵抗」という現象
カウンセリングを受けたがために、クライエントさんがますます落ち込んでしまうということがあります。「セラピストに自分のことが全く理解してもらえなかった」というのが原因になっていることが多いようです。
長くカウンセリングを受けているのに症状が軽減されず、挙句の果てに「あなたは心理療法に抵抗している」なとど言われる場合がありますが、そんなときはがっくりしてしまうでしょう。
「あなたの症状がなかなか消えないのは、あなたがその症状を心の底では持っていたいからだ」などと言われてしまうと、本当に困っているクライエントさんは途方に暮れてしまうと思います。
医原的苦痛
「これから薬を飲み続ければ大丈夫」とか「あなたは○〇障害という病気ですね」などと不用意に言われて、それが原因となってますます苦痛を感じたり失望することもあります。
これらは医原的苦痛などと言います。医療が原因となって苦痛が生じるということです。この考えは、はじめは医学に適用されていたのですが、心理療法にも使われるようになりました。
セラピストはまったく意識せず意図もしないのに、クライエントを傷つけクライエントに苦痛を与えてしまうことがあるのです。
医原的癒し
反対に、セラピストがまったく意識せず意図もしないのに、クライエントを安心させ勇気づけていることもあります。「医原的癒し」とでも呼べる現象です。
クライエントさんの想い
クライエントさんは、自らの悩みや症状を恥ずかしく感じていたり、他人には知られたくないと願っていることがあります。自分は〇〇障害ではないか、精神病かもしれないと恐れていることもあります。
クライエントさんは自分の悩みが奇妙で特殊で珍しいものと考えています。中には誰にも理解してもらえないのではないかと怯えていることもあります。
ノーマライズ
それに対して、セラピストが「そういう風に感じることって普通のことだよね」、「そういう悩みを持っているクライエントさんって多いんですよ」といって返すかかわりを「ノーマライズ」といいます。
「ノーマルにする」というかかわりです。クライエントさんの語りに対して「それって普通のことだよね」、「正常なことだよね」という言葉がけになります。「あまり深刻に考えなくていいんじゃない」という気持ちもこもっています。
このノーマライズによって、ホッとしたり勇気をもらったりするクライエントさんは多いものです。
もう頑張れない
「いろいろと手を尽くしてきたけど、もう頑張れない」、「どうすればいいでしょうか」というクライエントさんの場合も有効なことがあります。
詳しく話を聞いてみると、たしかに十分に手を尽くしてきたことが分かるような場合は、何か新しいことを提案するよりも、ノーマライズから始めてもよいかもしれません。
「いろいろと手を尽くしてこられたので、普通、これ以上何かをするのはムリでしょう」というセラピストのノーマライズを、クライエントさんが受け入れてくれるかどうかを試してみるのです。
ノーマライズというジョイニング
クライエントさんは「どうすればいいでしょうか?」と助言を求めてはいますが、心の内では「もうこれ以上はムリ」と思っていることも多いものです。その場合、ノーマライズはクライエントさんをホッとさせるものです。
そして、ノーマライズは、クライエントさんへの上手なジョイニングとなって、治療同盟(作業同盟)を作りやすくしてくれます。
現状維持を目指すこと
ノーマライズがクライエントさんに入るならば、変化よりも現状維持を目指して、これまでやってきたことの中で比較的うまくいったことに焦点を当てた方が良いこともあります。
ムリなく少しずつ成功していること、今より多少良い状態の時や場所を探し出すわけです。そしてそれをもっと意識的にやってもらったり、そのような良い状態が生み出される条件をより意識的に整えてもらったりするのです。
それは、クライエントさんが努力してきたことを承認することになり、その努力の成果を詳細に検討することになりますので、クライエントさんも取り組みやすいものです。
変化を「必要」とするのか「不必要」とするのか。そのいずれにおいても、クライエントさんに合わせた解決の道筋をつけることは可能なことです。