教室での観察方法

スクールカウンセリング

ほんのちょっとの情報

 学校に到着したらすぐに、小学校2年生のB君の教室で観察をしてほしいと言われました。このような依頼は突然やってきます。

 B君に対する先生たちの評価は、「独特の世界を持っている子」、「一人の世界がある子」、「やや引きこもりがちではないか」といったもの。

 保護者は「切り替えが下手で困っている。ゲームばかりやっていて、次の行動への切り替えがうまくいかない。こだわりも強くて何を考えているのかわからない子」と話しているそうです。保護者とは会ったことがありませんでした。

 こういうことから学校では、「スクールカウンセラーにB君の様子を観察してもらって、気づいたことを教えてもらおう」ということになったそうです。

少ない情報での教室観察 

 もう少し詳しいB君の情報を得たかったのですが、学校では情報交換をゆっくりしている暇はありません。仕方なくそれだけの情報を得て、あとは観察に行くことにしました。

B君の様子

 B君がどの子なのか。顔も分からないまま教室に向かいました。でも幸いB君のことはすぐにわかりました。

 身体はフラフラと揺れ、小刻みに貧乏ゆすりをし、口を高速でパクパクさせています。席から離れることはありませんが、かなり多動な様子がうかがえました。

 時々、両腕を突き出したり、手を回転させたりして、何か空想の世界で遊んでいる感じです。先生が板書を始めたら、それにはついていきますけど、すぐに自分の世界に入っていきます。

 「近くの人と話し合いをしましょう」と先生から指示をされても、本人はどこ吹く風で、周りの子と交わろうとせず、一人で空想の世界で過ごしていました。

 ただ、そんなB君のことを、他の子たちは全く気にせず、自然と話し合いは続けられていきました。

 「独特の世界をもっている子」というのはまさにその通りという感じでした。でも、それが際立って目立っているという感じでもありません。

作品の観察

 このような観察だけで、B君の心理状態を理解することはできません。B君とは話したこともないですし、情報が少なすぎるからです。

 そこで情報を集めるのですが、まず見るべきは、本人の描いた絵や作文といった作品です。

 小学校であれば、教室の後ろに本人が描いた絵や作文が掲示されていることが多いものです。この絵や作文に、その子らしさのようなものが表現されていることが多いのです。

共通点と相違点

 その子らしさというのは、他の子どもと違った特徴と考えてもいいでしょう。他の子どもたちの作品も掲示されていますから、それらとB君の作品を何度も見比べて、B君の特徴を見出していくのです。

特徴は細部に宿る

 このようにして、観察対象となる子どもの作品とほかの子どもたちの作品を見比べていて、その特徴が現れるのは、細部であることが多いものです。この教室観察をしたときに掲示されていたのは、運動会の絵でした。

 目が異常に吊り上がっていたり、怒っているような描かれ方をしていないか。Bくんの場合、穏やかな表情の子どもが描かれていました。

 特に歯は攻撃性の表れと言われます。家でガミガミ叱られている子は歯を描くことが多いです。その歯が牙のようになっていたらやはり気にしておいてよいでしょう。B君にはそのような特徴もありませんでした。

ちなみに、この学級には気になる目や口を描いている子はいませんでした。

人物

 人が描かれているかどうか。ちなみにB君は自分以外、誰も描かれていませんでした。登場人物が一人だけという絵を描いたのは、学級の子ども30人の中でB君だけでした。

 他の子どもたちは二人以上は描いていましたので、これはB君の特徴だと言えそうです。

その他

 B君の絵には、昆虫や草花が描かれているのも特徴でした。運動会の絵でしたので、このような絵を描く子は他にはいませんでした。ここもB君の特徴でしょう。

考えられること

 B君は確かに自分の世界に引きこもりがちであり、今ここで求められていることに気づきにくいようです。自分の関心の方が優先されている状態でしょう。

 ですから、切り替えが遅いというのはその通りだと思います。しかし、板書には追いついていますので、本人のペースで学習はできているようです。

 このような特徴から、B君は、ほかの子どもと比べると、成長が少しゆっくりなのかもしれません。

周りとの関係から

 周囲の子とのトラブルもない様子。周りの子もB君のことを気にしていません。面倒見のいいお姉ちゃんが二人もいるということで、そのあたりの環境因もあるかもしれません。このような報告をして少し成長の様子を見ていくことにしました。

 ささやかな観察のポイントを振り返ってみました。所要時間は30分程度だったと思います。

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