ラポールの形成
ラポート形成のやり方はいろいろです。よく知られているのは受容です。クライエントの話を批判することなく解釈を加えることもなく、発言をそのまま受容しながら聞くということです。
これはけっこう受け身なのですが、もっと能動的に進めるやり方もあります。ペーシング(pacing)と言ったりします。「合わせる」という意味です。
ペーシング
『ブリーフセラピーの極意』(森俊夫,ほんの森出版,2015)に書かれていました。とにかく相手の言うことにこっちが合わせていくということです。能動的です。ブリーフセラピーでは有名な働きかけのようです。
ペーシングのポイント
ラポール形成は「立ち合いで決まる」(出会った瞬間の第一印象を大切に)。だから「笑顔が大事」。
共通点・共通の話題を見つける。「一緒一緒の関係」をつくる。そのためには共通点を見つけること。これはアバウトで良い。相手がアンパンが好きと言ったら、別に好きでなくても、嫌いではないのだから「私も」と合わせる。ざっくりでよい。相手がサッカーが好きと言ったら、自分は野球が好きでもスポーツが好きなのは変わらないので「私も」と合わせる。
節操なく嗜好や価値観も相手に合わせます。もし、嗜好や価値観が合わない相手だったらなおのこと、これは技術として必要になるようです。
クライエントの話した「単語」を使って合わせる。相手の話の内容というよりもむしろ、相手の語った「単語」に合わせるようにする。
相手の話を振り返ったり、こちらから質問をしたりすることがありますけど、そのときは、相手の使った「単語」を用いてそれをするという感じです。
非言語を合わせる
非言語を合わせるというのは私はなかなかできません。言葉の方にばかり意識が向いてしまうからです。
しゃべり方のトーン、抑揚、スピード、間。姿勢や動作、呼吸、服装。
けっこう、カウンセリングの本に載っている内容なのですが、サラッとしか書いてないので、サラッと読み飛ばしていました。これからは非言語を合わせることも努力したいと思っています。
バイオ・ラポール
非言語を合わせて相手と同調する。この非言語的同調状態つまりシンクロしている状態を、バイオ・ラポールと言ったりするそうです。生物的ラポールという意味です。
この本によりますと、欧米の大学などではルームメイトというのがありますけど、仲の良い女性同士のルームメイトでは月経周期が合ってくることがある、と書かれていました。
面接の録画記録を見直してみると、うまくいっているときの面接では、クライエントとカウンセラーは同じような姿勢で同じような動きをしているそうです。これはかなりはっきりしているらしいです。
そういえば、学校で観察していると、雰囲気の良い学級の子どもたちの雰囲気は、その学級担任の雰囲気ととても似てきますけど、あれもバイオ・ラポールという非言語同調現象なのかもしれません。
バイオ・ラポール。心理的ラポールよりも強力かもしれません。
まばたきを合わせる(相手がまばたきをしたときに、こちらもまばたきをする)
呼吸を合わせる(相手が息を吸ったらこちらも吸い、相手が息を吐いたらこちらも吐く)
どれも日常生活の中でもトレーニングできそうです。
クロスマッチング法
相手と別な動作を合わせることもあるそうです。相手が「まばたき」をした時にこちらは「うなずく」というものです。
相手が興奮してまくし立てていいるときなどはとても便利だそうです。相手はまくしたてながらまばたきをしますが、こちらはそれに合わせてうなずくのだそう。
相手の顔を見て、まばたきに合わせてうなずく。そうして非言語的同調現象を作り出す。これもペーシング。
ペーシングからのリーディング
そのあと、だんだんと相手に合わせていたうなずきの感覚を広げてゆっくりにしていきます。すると、あら不思議。相手のまばたきはゆっくりになっていき、興奮状態も収まっていくそうです。今度はこちらがリードするわけです。
合わせっぱなしではないのです。
これがペーシングからのリーディング(pacing & leading)。その間にはシンクロがあります。ペーシング→シンクロ→リーディング(ずらし)。
「!」の瞬間
しっかり合わせるから、”ずらし”が効いて、そのとき「!」という瞬間が訪れます。「!」は新しい何かが創発した瞬間や認知が切り替わった瞬間という意味です。この「!」の瞬間を引き起こせたら、うまくリード(ずらし)ができたことになると思います。
人が変わるときというのは、ある日突然自転車に乗れたあの時のように、一瞬で変わることがあります。これがブリーフセラピーがうまくいったときの一つの姿でしょう。そう考えると、ブリーフセラピーは手続き記憶と関係が深いのかもしれません。