統合失調症の爆発
『異界の歩き方』(村澤和多里・村澤真保呂著 医学書院 2024)という本を読みました。読み応えのある本でした。その中に、「べてるの家」での当事者研究のことが書かれてありました。
その当事者研究というのは、統合失調症の人の爆発に関する研究のことです。
ここでいう爆発とは、家族に対する暴言・暴力、恫喝、家の壁に穴をあける、金銭の浪費、家具の破壊、入院中に病室へのすしの差し入れの強要など、手に負えない状態のことのようです。
爆発の理由
この爆発を当事者である統合失調症の患者さんが研究したのです。自分の爆発を自分で研究するわけです。
この研究によりますと、爆発にはまず準備状態があります。それは、不安や孤独感の高まりです。ただ、この不安や孤独感は、しょっちゅう問題を起こしているので、人が寄りつかなくなっていることに起因しています。自業自得なところもあります。
そして、この不安や孤独感がさらに高まっていくと、無理難題を家族に言い始めます。そして、家族が我慢できなくなって不満を言った途端、「待ってました!」とばかりに爆発するそうです。
爆発した後は、激しい自責の念を感じて後悔や反省をします。この時に妄想も現れて、引きこもりに陥っていくということ。周囲から引きこもりますし、周りの人からも距離をおかれていますから、どんどんと孤独感や不安が募っていきます。そしてそれが準備状態となるのです。
爆発は「つながり」の回復手段
このような当事者研究を進めていくことによって、この統合失調症の患者さんは、爆発が自分の不安や孤独感を解消させるためになされていること、それがさらなる孤独感を募らせることを理解していったようです。
さらに発見したことは、「爆発すると人とのつながりが回復する」ということ。つまり爆発しているときには、「人とのつながりを回復したい」という気持ちも高まっていることにも気づいていったそうです。
たしかに爆発すると、まわりで距離をとっている人たちも、何らかの対応をせざるを得ませんから、爆発は結果的に人とのつながりを回復する手段になっているわけです。
爆発の目的論
目的論から考えると、爆発する目的は、孤独を解消することであり「人とのつながりを回復すること」になります。当事者として自分の爆発を自分で研究し、このような結論に至ったことは大きな意味があったのでしょう。「爆発の真実」というか、「爆発の前向きな意味」というか、自分では気づいていなかったものをつかめたのだと思います。
もちろん、爆発はなくなったほうがいいのですが、そのためには、勇気をもってつながりを回復する別の手立てを考えていかなければなりません。
本書では、幻聴や妄想といった爆発の前触れを感じた時に「お帰りキャッチ!」と言って親指を立てて、それを聞いた周りのスタッフは「ナイスキャッチ!」とやはり親指を立てることで励ましと連帯を示すようにしたそうです。こうしてもらうとこの人は、これまでの辛い気持ちが潮が引くように軽減されることを発見したそうです。
「前向きな意味」の発見
「死にたい」気持ちの高まりや「爆発」といった行動の背後には、「つながり希求」の心理が働いていることが多いそうです。そして、当の本人は自分が「つながり希求」があることに全く気づいていないことが多いと思います。おそらく自覚しているのは、怒り、絶望、悲しみ、無力感といったものだけでしょう。
ですから、暴言暴力や自殺念慮の背後には「つながり希求」があること、そして「つながろうとする勇気」を回復する方向に話が展開することを目指すことは、クライエントのニーズに合った対応の一つとして考えることができると思います。