家庭菜園にて
我が家には小さな庭があります。そこで、家庭菜園でもやってみようと思ってパセリを植えました。土地との相性が良かったのか、パセリはすくすくと育っていきました。
もう少しで食べられそうだと思っていたある朝、パセリに大きなあおむしがくっついているのを妻が見つけました。そしてあおむしを棒でつまんで、近くの林に投げ込みました。
妻は、そういう虫が平気な人です。私はゾッとします。ゾワワワと身体が反応してしまいます。あの色と動きが気持ち悪いですね。
妻が駆除してくれたので、これで一安心と思いきや、翌日もなぜかパセリの葉にくっついていました。仕方がないので、もう一度つまみ出したのですが、翌朝もくっついています。
仕方がないのであきらめる
あおむしはパセリが好きらしいです。本当に勢いよく食べます。むしゃむしゃ食べます。食べる邪魔をしてやろうと思って、棒であおむしを突っつくと、生意気にも、頭から変な黄色いものを出してこちらを威嚇してきます。
近所の昆虫博士(10歳)によると、敵をやっつけるために臭いにおいを出すのだとか。あおむしもチョウになろうと必死なのでしょう。
何度もあおむしを見ていると、こちらもだんだんと目が慣れてきて、気持ち悪さは薄らいでいきました。すでに半分くらい食べられてしまったので、最後はあきらめました。
あおむしとの約束
ただ放っておいて食べるがままにさせておくのも癪です。なので、あおむしとある約束をしました。「いいか、お父さんが育てたパセリを食べたのだから、必ず恩返しをしろよ。きれいなチョウになったら、その姿を見せに来るんだぞ。そしてお父さんの肩の上に乗っかれよ!絶対だぞ!」
このようなことを声に出して5,6回は伝えました。その時あおむしは、あのへんなにおいの黄色い物質を出すこともなく、むしゃむしゃと食べるのも止めて、じっと聞いているようでした。
パセリはすっかり食べつくされました。茎の部分だけが残って、葉っぱはものの見事になくなりました。
それからしばらくして
それからしばらくたったある日。庭で靴を洗っていたところ、向こうからひらひらとアゲハ蝶が飛んできました。その瞬間、「あ!アゲハ蝶になった姿を見せに来てくれたのだ!」と直感しました。
私の肩に乗っかるところまでが約束です。チョウは迷いなく私の肩に乗っかって、羽を休めはじめました。不思議なことですが、その時はあまり不思議だとは思わず、約束を守ってくれたのだなという感覚しかありませんでした。
おじさんも
昆虫といえば、私の叔父がおもしろい特技を持っています。
私の叔父はヤゴの時から育てたトンボに「ボン」という名前を付けていました。叔父はボンを近くの川に放して、野生に返したのですが、その川に行って叔父が名前を呼ぶと、ボンはどこからともなくやってきて、叔父の指に止まっていました。
それが有名になり全国ネットの朝のテレビ番組に出演したことがあります。テレビで見た人たちからの反響は結構大きかったようです。
専門家によると
テレビ番組ですから、この不思議な現象に対する専門家のコメントも取材していました。専門家によると、名前を呼ばれたからおじさんのところに戻るのではなく、おそらくおじさんの声の音に反応しているのだろうということでした。
叔父は、このようにトンボを育てたのはボンが初めてではありませんでした。それ以前にも同じように育てて、やはり呼ぶと、指に止まっていたそうです。だから、叔父の声の音とトンボが反応しやすい音域が重なっているという専門家の意見はなるほど納得です。
でも、私は叔父が愛情込めて育てたことも強く影響していたのではないかと思っています。時に人は昆虫とも心を通わせることができるのだろうと、私はそのようなことを信じたいと思っています。