うまくいっても残る不全感

カウンセリング

子ども理解とアセスメント

 学校の先生たちは、日々子どもの成長や変化の兆しを観察しながらかかわっています。もちろん、その時には、子どもの行動の背後で働いている心の動きにも注目していることでしょう。

 これと同じようなことはスクールカウンセラーもやっています。カウンセリングの業界では、クライエントの心を理解するプロセスをアセスメントと言います。この「カウンセラーのアセスメント」と「先生の子ども理解」とでは、そのやり方に違いがある気がします。

 今回は、「先生の子ども理解の方法」について考えてみましょう。

先生の子ども理解

 例えば、「受け持ちの子どもの行動が荒れていて、どのように手を尽くしても効果がない」といったような場合を考えてみましょう。「この子とのかかわりをどうしようか?」と考えるようなときです。

 このとき、先生たちは、以前受け持った子どものことを思い出そうとすることがしばしばあります。「今、目の前にいるこの子と同じような子が過去にいただろうか」、「同じような状況はなかっただろうか」と過去の経験を掘り起こすのです。

 先生たちは、たくさんの子どもにかかわっていますから、その経験を手掛かりにするのですね。そして、「何となくあの子の時と似ているかもしれない」、「この子は、昔受け持ったあの子と同じようなタイプかもしれない」などと、考えていくようです。

行動レパートリーを掘り起こす

 先生たちは、たくさんの子どもたちと、いろいろな場面で、いろいろなかかわりをしていますので、対応のレパートリーを豊富に持っています。

 ですから、どのような対応が最適なのかということを、これまでの経験と照らし合わせて解を導き出そうとするのでしょう。

トライ・アンド・エラーで最適化する

 そのように以前うまくいったかかわりを試してみて、「これがダメなら次はこれ」という具合にトライ・アンド・エラーを繰り返して、その子にフィットするかかわりを模索していきます。こうして自分のかかわりを子どもに最適化させていくといえるでしょう。

 これがうまくいくと、子どもに落ち着きがみられて、少しづつ成長を後押しできるようになっていきます。

それでもだめだったら?

 それでもダメなこともあります。どうしても子どもとのかかわりがうまくいかないのです。そのような場合、今度は、他の先生たちの知恵を頼ることになります。

 職員室などで、「どうしてもあの子とのかかわりがうまくいかない」、「こうやってもだめだった」、「こうやったら、こういう反応だった、なぜだろう」などと、近くの先生たちに話しかけます。すると、それを聞いていたほかの先生たちもその話に加わっていきます。

 教頭先生や教務主任、学年主任といったベテランの先生がいたり、養護教諭という学級担任とは違ったまなざしを持っている先生もいますので、いろいろな意見が出されます。

多面的な理解

 他の先生たちも、「ああいうタイプの子にはこうしたほうがいいのでは?」、「ああいう子どもには、こうやってうまくいった」、「こういうことにカチンときて、あの子は素直になれないのかも」、「あの子のお兄ちゃんを担任したことがあるけれど、家庭の状況はこういう感じだった」などといろいろな観点から意見や情報が出されます。

 そのような話し合いの中で、これまでやったことのないかかわり方や考え方が出てきた場合、それを試してみることになります。そしてまたトライ・アンド・エラーの精神でかかわります。

この方法の優れた点

 スクールカウンセラーから見ると、このようにしてなされる先生たちのかかわりは、とても優れたやり方のように思えます。その理由をいくつか挙げてみましょう。

①とりあえず、「明日、どのようにかかわるか」といった暫定的な解(かかわり方)を見出すことにつながりやすいから。

②かかわりがうまくいかない子どものことを、みんなで考えるシステムになっているから。

③かかわりがうまくいかない先生は、愚痴めいた発言になることもあるが、それをみんなで聞いてあげることによって、カウンセリングでいう浄化がなされ、支え合うことができるから。

④いつまでもうまくいかないかかわりをするのではなく、ちがう対応に素早く切り替えることができるから。

⑤学校のスピード感に合っているから

 こうやって先生たちは、最適解を導き出していくのです。

残る不全感

 ただし、このようなやり方は、たとえうまくいったとしても、不全感が残るようです。というのも、「うまくいった理由が分からないから」です。

 先生たちは、「自分はこれまでの経験と勘だけに頼っている」、「たまたまうまくいっただけ」、「自分のやり方は主観的で客観性がない」、「その場限りの場当たり的なかかわり」と自分のかかわり方を評することが多いものです。

 おそらく、「子どもの気持ちをしっかりと見取ったうえで、理論的に仮説を立ててかかわり、予測通りに子どもが変化していくこと」を理想として考えているのでしょう。

スクールカウンセラーとして

 確かにこのことは心理学の目指すべきところなのかもしれません。「行動の予測とコントロールこそ心理学の目指すこと」と謳う学派もあるくらいです。

 ですから、スクールカウンセラーが先生たちから助言を求められた時には、「子どもの気持ちはこのように推測できる」ので「こうすればいいのではないか」と、かかわりにまで踏み込んで助言するのがよいのでしょう。

 これは、スクールカウンセラーにとって、とても難しい作業です。でも、対応にまで踏み込んだ助言を求められていることは理解しておきたいと思っています。

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