日常会話での典型的な聴き方

カウンセリング

日常での相談事

 私たちは日々の暮らしの中で、いろいろな相談事をしますし、他者からも相談を受けます。自分のこと、家族のこと、健康のこと、将来のこと、子育てのことなどです。

 もし、他者から相談を持ちかけられたら、私たちは親身になって話を聞くでしょう。そのような時、典型的な聴き方というのがあるようです。次に示してみましょう。

日常での典型的な聴き方

分類  具体的な言葉
気持ちの収納 「つらいのはあなただけではないよ」「愚痴を言っても何も変わらないよ」
変化を求める 「あなたが変わってしまった方が楽よ」「相手にも言い分があるんじゃない?」
励まし 他の人もみんないろいろあるけど、頑張っているんだよ。だからあなたも頑張って。
そらし そんなにわるいことばかりじゃないよ。良いことにも目を向けた方がいいよ
経験談を話す そういうこと、あるよね!私の経験では・・・。
共感 うん、うん、わかる、よーく分かるよ。
称賛 すごい! えらい! さすが! できるね!

気持ちの収納

 これは、相手のつらい気持ちを受け止めつつ、「みんな同じ」、「愚痴を言っても始まらない」、「私も同じだよ」という言い方です。

 もし、これが「私も同じだから一緒に我慢しようよ」という呼びかけとして受け止められたならば、つらい気持ちを心の中に収めようとするエネルギーを与えられるかもしれません。

変化を求める

 これは、つらい気持ちを解消する方法に言及している言い方です。そのつらい気持ちを消すためには、相手や環境を変えようとするのではなく、自分を変えようとした方がよいというアドバイスです。「そうすれば、問題を主体的に解消できるし、解決も早いよ」ということでしょう。

 たしかに自分が変わった方が早いという場合はありますから、これも効果を期待できそうです。

励まし

 これは「押さえつけ」の親戚のようなものです。「がんばれ、がんばれ」と励ますことで、心に広がる不安や弱気を一喝することをねらったかかわりです。心が弱くなって気持ちが落ち込みそうなときに、「がんばれ」といわれることで不安を一蹴できる場合、効果的でしょう。

 気持ちが落ち込みそうなときには有効かもしれませんが、どん底にいたり、がんばりきってエネルギーを使い果たしたときに、「がんばれ」といわれることは酷なことでもあります。

そらし

 これもつらい気持ちへの対処法を示そうとしたものです。つらい気持ちを「受け取る」のではなく「受け流して」話題を変え、他のところに目を向けさせようとする対応です。

 つらい気持ちのときは、悪いところにばかり目が向きがちですので、このようなかかわりが効果をもつこともあるでしょう。

体験談を語る

 これは、解決策を示そうと思って、自分の経験談を伝えるという対応方法です。

 自分も相手と同じようなつらい経験しているので、そして、相手は解決策を模索しているようなので、自分の経験談を話すことが、相手に役立つのではないかと思って、それを伝えようとすることです。

 同じような経験をした人の体験談というのは、たしかにリアルで役に立つことが多いので、「なるほど」と思うこともあるでしょう。

共感

 これは、傾聴に徹して、相手の辛い気持ちに共感を示そうとするものです。つら気持ちを抱えている人にとって、共感的な雰囲気の中で話を聞いてもらえることは、安心して話ができますので、有効な場合も多いと思います。

 特に、話したいことが一杯あるような場合、共感を示してくれる他者が熱心に耳を傾けてくれることはとてもありがたいことです。

称賛

 これは、「すごい」、「えらい」とほめることによって、相手の落ち込んだ気持ちを持ち上げる効果を期待したものです。親と子ども、先生と生徒、上司と部下といった上下関係がはっきりしているような場合、効果が発揮されることもあると思います。

「典型的な聴き方」の良い面

 これらの聞き方は、相手のことを考えて、「良かれ」と思ってやっていることです。そして、その善意が相手に伝わるとき、確かに良い効果を発揮すると言えるでしょう。

 日常会話というのはカウンセリング場面ではありません。ですから、じっくりと傾聴することは難しい場面です。

 また互いに利害関係があったり、それほど深い関係でもない、ということもありますから、関係性の面でもカウンセリング場面とは大きく異なります。「その場限りの関係」ということもあるでしょう。

 しかし、仕事や日常には、不安になったり、困ったり、助けてもらいたい場面が頻繁に起きます。ですから、非常に短い時間で、互いのプライバシーには踏み込まず、しかし、不安を払しょくし、困難を乗り越える方向の聴き方が求められると思います。

 それが、上記の「日常会話での典型的な聴き方」ということになります。

最後に「現実に戻す」

 この「日常会話での典型的な聴き方」はこれでは終わりません。最後は「現実に戻す」があります。

 ある程度話を聞いた後、それを聴きっぱなしにするのではなく、「じゃあ、もうそろそろ会議の時間だね」、「ところで、あの宿題終わった?」、「ごめんね、お迎えの時間だから」といった感じで、話を現実に戻していきます。

 私たちは、短時間で、お互いの心の内に踏み込まず、しかし、互いに支え合って、現実にもどっていけるような聴き方を日常会話の中でしているわけです。日常会話の聴き方には、そのような知恵が働いているように思います。

カウンセラーはあまり使わない

 この「日常会話での典型的な聴き方」ですが、実はカウンセラーはあまり使いません。その理由については次の機会で考えたいと思います。

 

タイトルとURLをコピーしました