低学年の子との面接

スクールカウンセリング

複雑な家庭の中で

複雑な家庭が増えるにしたがって、親の離婚や再婚に振り回される子どもたちがおります。親は親で自分のことで一杯一杯。だから子どもにまで配慮が行き届きません。

小学校では、そういう子どもたちとのカウンセリングが増えているように思います。盗みや家出といった問題の背景には、家庭的な混乱があることも少なくありません。

そういう子どもたちとの心理療法では、プレイセラピーが第一選択肢になるかもしれません。しかし学校では、プレイセラピーを継続できる保証はありませんし、場所や道具の問題もあって、なかなかプレイセラピーを選択するのは難しいと思います。

だから話を聞くという普通の面接が多くなります。

黒板を使って

子どもの話を聞いていると、登場人物が多いうえに話題があちらこちらに移って、話の前後関係もあいまいだったりしますので、しばしば話についていけなくなることがあります。

子どものほうも、話しているうちに言いたいことが何だったのかを忘れてしまったり、言いたいことが複雑なので説明するのをあきらめてしまったりすることもあります。

当然ですが、年齢が低ければ低いほどその傾向は強いものです。ですから、登場人物が多くなったり、話が複雑になったり、家族の話になる時には、私は黒板を使って話を聞くことにします。

動けるメリット

「なんか話が複雑そうだから黒板に書いてみない?」と誘うと、ほとんどの子どもは乗ってきます。そして黒板の前に二人で立ちます。

立って動きながら話ができるのは、子どもにとって(私にとっても)大きなメリットです。自由な感じです。動きながら話すといろいろなアイデアや発見が生まれやすいものです。疲れたら座ればいいだけですから。

身長差のメリット

そして身長差。私は男性の平均身長より高いので、小学生と私とではかなりの身長差が生じます。子どもは横に立っている私を見上げることになります。さらに私の身体はがっちりしているので、子どもはそれなりの圧を感じると思います。私はその圧が「頼りがい」に変化するように努めています。

そうはいっても、変な圧を感じさせると子どもは話しにくいでしょう。ですから、できるだけ圧を感じさせないように腰をかがめて、子どもと同じ目線になるように努めます。

しかし黒板に書くときなどは普通に立ちます。そのとき身長差が際立ちます。私はかなり大きな人になりますし、逆に子どもは自分の小ささを強く感じると思います。

その小さな自分の話を大きな大人がとても熱心に聴いてくれる。そういう経験の乏しい子たちがカウンセリングに来ていることが多いので、子どもにとってのこの身長差は、自分を子どもとして、相手を大人として、自然と位置づけることになります。

複雑な家庭であればあるほど、大人と子どもとの間に境界線がひかれていないことがありますから、この身長差は大人と子どもの一線を引くことになります。相手は大人であり自分は子どもであると、子どもは実感を伴って感じられるのです。

意外とこの身長差はメリットになっていると思います。

黒板に書くメリット

学校では、黒板は先生の領域。先生が使うもの。教室ではそれを自由に使うことなど許されません。でも子どもたちは書きたい。でもそれを抑圧している。子どもの心はそんな状態だと思います。

だから、「一緒に黒板をつかって話そうか」と言われると、それだけで子どもはテンションが上がります。「赤色とか青色のチョークもあるからね。黄色もあるね。へー紫色もあるんだ。これも使えるからね」などと説明すると、だいたい全色使います。

動けるし、大人が聴いてくれるし、黒板に書ける。そういう場が、プレイセラピーとはまた違った感じの熱をカウンセリング関係の中にもたらします。そして、その熱が場全体を覆い始めます。

ジェノグラムを使って

こうして黒板を使って話を聞くのですが、有効なのはジェノグラム(家族図)を使うこと。ジェノグラムを子どもとの面接でつかうという論文はあまり見かけませんが、実際には多くのスクールカウンセラーは日常的にこれを使っているのではないでしょうか。

司法面接で子どもへのジェノグラムを使うことはあるようです。しかし、この場合の子どもというのは、主に思春期・青年期の人が対象であることが多いと思います。小学校低学年・中学年に対するジェノグラムを使った面接ということはあまり聞きません。でも効果はてきめんです。

心の距離が取れるメリット

ジェノグラムを使うメリットはいくつかあると思います。一つ目は全体を把握して家族から距離をとれること。

ジェノグラムを作る時には、最初はこちらが「〇が女の人で□が男の人ね。あなたのお家だと、この〇がお母さんでこの□がお父さんで、ここにお兄ちゃんのあなたがいて、妹さんがこの〇だね」という具合に書いていきます。

祖父母やおじ・おばなども書くこともあります。ペットが重要な時はペットも書きます。そのあたりは自由です。具体的な名前で書きます。「トモヤ」とか「メグミ」とか。

最初はカウンセラーが主体となって尋ねていきますが、次第に子どもの方からいろいろな人を紹介してくれます。それを書き込んでいきます。

「トモヤおじさん」のようには書きません。「トモヤ」の方が客観性が出ますし、家族から心の距離が取れます。まずは登場人物をフラットにとらえます。

関係を把握できるメリット

そして、それぞれの関係を黒板に書きます。だから、黒板は広く使います。「ギザギザは関係が悪いということで仲良しは二重線。今までの話だと、お父さんとお母さんはギザギザかな?」と話していくと、次第に子どもの方からいろいろと関係を話してくれます。

ジェノグラムを指をさしながら、やがて自分からチョークを手に取って書き込んでいきます。あくまでも子どもが理解している関係性になるわけですけどそれが重要です。

複雑な人間模様を「見える化」することで、子どもの頭の中はどんどん整理されていきます。ここまでは子どもの頭の中でなんとなく理解していたことがどんどん「見える化」されてクリアになっていきます。

本番へ突入

子どもがチョークを手に取って自分で書き始めると、新しい人物が登場したり、新しい関係を発見したり、新しいストーリーの可能性に気づいたりすることもあります。そして、カウンセリングとしてはここからが本番だったりします。

新しい登場人物や新しい関係、そして新しいストーリーが展開するあたりから、思考は子ども一人の頭では考えられなかった領域に進んでいっているからです。

この新しい領域が語られるときには、資源になるような人や事柄、あるいは自分の抱える問題のキー・パーソンを発見することもあります。

両親が離婚するような場合のこと。自分はお父さんについて行こうと思っている。けれども、それがなぜなのかははっきりしていなかった。何となくその方が良いだろうと思っていただけ。

そういうことをジェノグラムを書きながら話していると、次第にその理由が大好きだった亡くなったおじいちゃんの影響であることを理解したりすることがあります。そして腑に落ちるという体験をするなどということが起きるのです。

乗ってくるメリット

黒板にどんどん書き込まれていくジェノグラムを見ながら子どもは話をします。書かれていることは頭の中で覚えている必要はありませんので、ワーキングメモリーがよく働きます。ですから、子どもは話しやすい。

カウンセラーも子どもの話したいことがよく分かりますし、もし分からないことが生じたとしても、ジェノグラムを指さしながら質問をすればよいので、より具体的な質問ができます。

具体的な質問ですから、子どもの方も答えやすい。そして、カウンセラーからの質問を考えているうちに、自分の思い込みに気づいたり、他の対応の仕方を思いついたりすることもあります。

カウンセラーは、子どもの話に感心したり、驚いたり、一緒になって怒ったりします。子どももカウンセラーも夢中になって話します。ノリノリです。低学年の子どもでもかなり深い洞察を示すこともあります。

面接が終わるころ

こういう面接が終わるころには、子どもは大変満足した表情を浮かべます。そこにはめちゃくちゃな家族の様子が黒板一杯に描かれているわけですが、そんなことよりも、一つのことを達成した高揚感があるように見えます。

カウンセラーにちゃんと自分のことを伝えられたし、カウンセラーにもちゃんと受け止めてもらえた。自分の頭の中も整理されたし、何より目の前には、二人で成し遂げた大きな成果が黒板一杯に描かれています。

子どもは一つの作品を生み出したような誇らしさがあるのだと思います。そんな自分をまんざらでもないと思っているようにも見えます。

守ってもらって当然

そうやって、黒板を使って面接をしていると、子どもは子どもとして、自分の小ささを実感しますし、自分が抱えている問題は子どもではどうしようもないことである、ということもはっきり理解できるようになります。

小さい自分ですから、悩むのは当然。困るのも当然。そして何より守ってもらうのも当然。そのことを意識させるのです。

子どもが「自分は守ってもらって当然の権利を有する」と感じられるようになってくると、それまでぼんやりとしていた子も、フワフワしていた子も、ヘラヘラ、フニャフニャしていた子も、それなりにビシッとしてきます。

難しい言葉を使えば、主体性が回復するということでしょうか。置かれた状況には何の変化もありませんが、顔つきが変わっていますし、姿勢も重心が下にさがったような安定感があります。

低学年や中学年という子どもとのスクールカウンセリングで、私が一番うまく対応できたケースはこういう状態になることが多いように思います。

そして、ここまでくれば、「次回も来てね」「また黒板に書いて考えようね」と次につなげることも容易になります。そういうことを数回繰り返していくと、子どもの問題は落ち着くことが少なくありません。

まとめ

黒板全体をいっぱい使ってジェノグラムを作成しながら行う面接では、次のようなメリットがあります。

・動いてしゃべれるのであまり縛られず自由である

・相手は大人・自分は子どもという関係が身体を通してはっきりする

・普段は自由に使えない黒板を目いっぱい使えるワクワク感と心の解放

・家族を客観視して距離を置ける

・ワーキングメモリーの負担を減らせるので、子どもは自分が理解する範囲の全体像を語れる

・新しい資源を発見できたり、新しい良質のストーリーが芽生えたりする

・子どももスクールカウンセラーも具体的に集中して話せる

・「自分は守ってもらう必要がある」と子どもが自覚できる

もっとメリットはあるかもしれません。これからも黒板を使った心理療法を続けていきたいと思います。

 

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