スクールカウンセラーの立ち位置
児童生徒に対するスクールカウンセラーの立ち位置は微妙です。20年くらい前であれば、校舎の隅っこの相談室で、細々と仕事をしていました。そしてそそくさと帰っていました。
ですから、スクールカウンセラーが児童生徒の目に触れることはほとんどありませんでした。しかし、最近ではこの傾向に変化が出てきています。
その一つは心理教育というもの。心の健康の維持・増進を目的に、教室で授業を行うことが増えています。
時代の流れとして、それはそれで必要なことだと思うのですが、その時、いわゆるカウンセラーの倫理規範である、多重関係ということに気をつける必要もあると思います。
身近な二重関係
案外知られていないのですが、カウンセリングにおいてカウンセラーは、カウンセラーとしての役割だけを担わなければなりません。二重の関係になってはいけないのです。
例えば、父親である私が息子のカウンセリングをするということはありません。この場合、私は父親でありカウンセラーでもあるという二重の役割を担ってしまうので、関係が複雑になってしまうからです。
大学教員である私が学生のカウンセリングもしてはいけません。学生を評価するという大学教員の役割とカウンセラーの役割の二重関係をもってしまうからです。
二重関係は、利害関係や支配関係に発展しかねません。ですから避ける必要があります。これは上司と部下の関係、夫と妻の関係、友人関係などいろいろなところに広がります。
さらに多重関係も
ときに三重関係(大学教員である私が、私の大学の学生である甥のカウンセリングをする)にもなり得ます。ですから最近では、二重関係も含む多重関係と呼ぶことが多くなっていると思います。
心の問題は目には見えませんので、どこでどのように関係が複雑になっているのかを見ることができません。だから、カウンセリングを開始する前に、あらかじめ多重関係にならないかをチェックして、それを避けるのです。
多重関係を避ける意味
この多重関係を避けたとしても、カウンセラーとクライエントとの関係は複雑なものになっていきます。ネガティブな気持ちやポジティブな気持ちが交錯することもしばしば。
ただしこれは、これまで何の関係もなかったまっさらな関係が複雑になっていくことですから、カウンセリングを進めていけば当然のことです。
始めは何の関係もなかったカウンセラーとクライエント。その心と心。これらが徐々に絡み合って形成される関係性をつぶさに観察することが、クライエントの心の動きを理解する手がかりになります。
ですから、心理療法を心理療法として成り立たせるためにも、その前提として多重関係は避けなければなりません。
心理教育の授業
こう考えると、学校で心理教育をする際には、頭に入れておかなければならないことがあります。スクールカウンセラーは「先生」になってはいけないということです。
スクールカウンセラーの授業など受けたことのない児童生徒は、新鮮というだけで心理教育を楽しみにすることがよくあります。
このような場合、スクールカウンセラーはキラキラした期待のまなざしを浴びて授業をすることになるかもしれません。普段、このようなキラキラを浴びる経験のないカウンセラーにとっては、なかなかまぶしいものです。
心理教育の授業後
そして、そのような授業が終わると、子どもたちにとってスクールカウンセラーは身近な「先生」になることがあります。「スクールカウンセラーの先生」です。廊下ですれ違いざまに「キリン先生!」と声をかけられたり、子どもが駆け寄ってきたりすることもあるでしょう。
スクールカウンセラーを身近に感じますから、子どもたちは気軽に相談にやってくるかもしれません。その中には「いじわるをされている」という相談があるかもしれません。その時、その子どもは「カウンセラーの先生がいじめっ子をこらしめてくれるはず、だって先生だから」という期待を抱いているかもしれません。
期待外れ
この期待に直接答えることはスクールカウンセラーにはできません。スクールカウンセラーは、教室に行って双方から話を聞き事実確認をしたり、叱ったり、裁いたりする立場にはありません。
スクールカウンセラーの仕事は、来談した子に寄り添いつつも、その子どもが自分なりに問題を解決するのを支援するのが仕事です。
そして、先生や保護者とこの問題を共有し、子ども、先生、保護者の支援をします。そういう立ち位置で仕事をするのがスクールカウンセラーです。
ですから、心理教育をするのはいいのですが、「カウンセラーは先生ではない」ということについては、二重関係をしっかりと伝えて、カウンセラーの立ち位置や役割について、子どもや先生、保護者にも理解してもらう必要があります。
「あっ、カウンセラーか」
この前、小学校で心理教育の授業をしました。その授業が終わってしばらくしたある日のこと。ある子どもが私とすれ違う時に「あれ?この人誰だっけ?」という表情をした後、「あっ、カウンセラーか」と言って通り過ぎていきました。
そう。子どもとスクールカウンセラーの関係はこのくらいがちょうどいいように思うのです。ちょっと頭の片隅にスクールカウンセラーがいる程度がいいと思います。
そして、いざとなったら登場する。そのくらいの関係性を維持するためには、週に1度程度の勤務日数でもよいのかもしれません。
まとめ
スクールカウンセラーが授業をすることになると多重関係が発生しかねません。現状ではあまり神経質になる必要はないと思いますが、先生たちと連携する際には、このようなことも伝えていくことが、スクールカウンセラーの職域を守ることにつながると思います。
