心理療法には時間がかかる
心理療法は時間がかかるものだと思われています。10回、20回で終結というのは早い方で、場合によっては100回を超えることもあります。
人によっては、10年以上、同じ人とのカウンセリングを継続しているということもあります。サイコセラピーには時間がかかるものと考えられています。
ドロップアウトは失敗例?
ですから、最初の1回だけでカウンセリングが終わるということはまれなことだと考えられていて、もし、そのようなことが起こったならば、それは心理療法の失敗例だと考えられることが多いと思います。
面接が1回で終わるような場合、クライエントはサイコセラピーへの「抵抗者」であり、心理療法を受ける準備ができておらず、変化に対する動機づけが不足しているなどと思われてしまうことがあります。
また、この場合のセラピストは、クライエントが求める情報を提供できなかっただとか、クライエントとのラポールをうまく形成できなかったなどと思われることもあります。
カウンセリングの回数
しかし、心理療法に関する調査によると、心理療法は1回で終結するシングルセッションが最も多いという結果がたくさん出ています。
1953年の調査によると、250の新しいケースのうち141ケース(56%)は1回で終結していますし、1972年のあるメンタルクリニックでは、来院した6708人のうち39%は1回しか受診しなかったそうです。このクリニックでは10回分の面接料金が全額保険で保証されているにもかかわらず、です。
こういう調査はかなりあって、タルモン,Mの『シングル・セッション・セラピー』(青木安輝訳 金剛出版,2001)にそのような例がいくつも掲載されています。
失敗だったのか?
この著者であるタルモンは、自分が対応したケースでもやはり同じように1回で終わるケースがたくさんあったので、思い切って1回で来談しなくなった人に電話して、その後の様子や受けたセラピーに対する感想についての追跡調査を行いました。200名に対して行ったそうです。
かなり勇気が必要だったとタルモンは述べています。失敗ケースだと思っているわけですから、何を言われるか分かりませんからね。
さて、調査結果は意外なものでした。なんと78%の人々は、1回の面接でほしかったものが手に入ったので当該の問題に対して以前より良い感じがある、あるいは、かなり良い感じを持つようになったと回答したのです。
大学院生に調査をお願いしたところ
もちろん、タルモン先生本人が電話して尋ねているので、元クライエントの人々はタルモン先生に気を使っている可能性が大です。データに信頼性がありません。ですから、今度は博士課程の学生に調査をお願いしました。
その結果はタルモン先生自身が行った調査とあまり変わりがなかったようです。
この大学院生の調査では、サイコセラピーによって何も変わらなかったという人もいたわけですが、この人たちが、次の面接に行かなかった理由は、「午前中の予約しか受け付けていなくて仕事を休むことができなかったから」という現実的な理由だったそうです。
セラピストが気に入らなかったからとか、面接の結果が気にらなかったから2回目の面接には行かなかったと回答した人はわずか10%だったようです。
失敗例とは言えない
このような調査から、タルモンは、”1回で面接が終わるのは失敗例”であるという考え方には根拠が薄いのではないかと考え始めました。
むしろ1回の面接でもかなりの効果を及ぼすことができのであって、この1回の面接によって最大限の効果を引き起こすにはどうすればいいのかということを考えていきました。
その後も調査を続けていったようですが、やはり結果は同じだったようです。
1回でも面接の効果はあるというこの主張を受け入れないのは、クライエントではなくて専門家たちであるとタルモンは述べています。
スクールカウンセリングでも
スクールカウンセリングでは1回の面接で終了してしまうことがよくあります。ですから、この1回の面接時間を単なるラポールの形成とか、アセスメントの時間などと考えず、もっと積極的に位置づけて有効に活用する方法を探っていく必要があると思います。

