心理教育の落とし穴

スクールカウンセリング

心理教育の依頼

スクールカウンセラーをしていると、いわゆる心理教育というものを学校からお願いされることがあります。

学校には「自分の意見を上手に伝えられずに黙ってしまう子」、「いつもイライラしてすぐにキレてしまう子」、「つらいのを我慢し一人で抱え込んでいる子」が少なくありません。

このような子どもたちに対して、より良い表現の仕方を教えたり、キレないですむ方法を考えたり、苦しい胸の内を話せるようになることを目的として、子どもたちを教育するのが心理教育というものです。

心理教育は苦手

心理教育は、スクールカウンセラーの訓練の中ではあまり取り上げられない分野ですから、苦手とする人は多いようです。しかし、学校からは求められる分野でもあります。

ですから、先生たちから「〇〇のような授業をお願いします」などと求められて、その期待に応えようとして慌てて心理教育を実施してしまうことがあります。スクールカウンセラー側に余裕がなくなってしまうのですね。

そうすると、どのような心理教育をすればよいのか、先生が求めているのはどのようなことなのか、という先生のニーズだけに目が向かいがちになります。

この時、学級や子どもの状態をアセスメントせず、すぐに心理教育を実施してしまうと、その副作用と呼べる現象を引き起こしてしまうことがあります。

グループワークの難しさ

学級が少々荒れ気味なので、仲間づくりを目的としたグループワークを実施したところ、子どもたちの状態が分からないまま実施してしまったために、かえって学級の荒れがひどくなってしまったというようなことが起こりかねません。

特にグループで競争するといったようなグループワークをやってしまうと、勝ち負けにこだわって頭に血が上ってしまうような子とどもがいる場合、グループ間でけんかになったり、グループワークが成り立たなくなってしまうことがあります。

心理職としては、まずは学級の様子や子どもをアセスメントしたうえで、どのような心理教育が必要になるのかを考えたいものです。

「sosの出し方教育」の効果

最近では、「sosの出し方教育」ということがよくやられています。苦しみやネガティブな気持ちを一人で抱え込んでしまって、元気や意欲をなくしてしまう子どもへの対応のためです。中には気持ちがあまりに辛すぎるので自傷行為に至ってしまう子もいます。

そのような事態に対応しようと思って「sosの出し方教育」を実施したとしましょう。そして、その授業がうまくいったらどうなるでしょうか。当然、子どもはつらい気持ちを身近な大人に打ち明けることになります。

「つらくて学校に行きたくない」、「〇〇が嫌だから教室には行きたくない」と子どもたちは訴えるでしょう。「昨日の夜、リストカットをしてしまった」ということをそっと打ち明けることもあるかもしれません。

「SOSの出し方教育」の逆効果

このように打ち明けてくれるのは「SOSの出し方教育」が効果的に作用したからなのですが、さて、このように打ち明けられた場合、大人はどのように対応すればよいのでしょうか。実はこのことを考えておかないと、「SOSの出し方教育」はかえって逆効果となってしまいます。

子どもが勇気を出して「学校に行きたくない」と言ったにもかかわらず、その子どもの気持ちや理由を聞くこともなしに、「とにかく学校には行って」、「学校に行かないなんて許さない」と頭ごなしに反応してしまったらどうなるでしょうか。

「昨晩リストカットをしてしまった」とそっと傷口を見せた子どもに対して、「人の注意を引こうと思ってそんなことをしているのだろう」、「そんなことは心の弱い人がするものだ」、「気持ちが悪いから見せないで」といって拒絶してしまったらどうなるでしょうか。

おそらく子どもは「もう二度と大人を頼ろうとは思わない」と考えるでしょう。それまでは大人を頼りたいという気持ちがあったからこそSOSを出したわけですが、それが対応されず、さらに拒絶されたとなれば、より人間不信が強まってしまうわけです。

逆効果(副作用)にも目を向けておく

学校では、ときに「SOSの出し方教育」だけに熱心になって、その効果だけに目が向きがちです。つまり、その副作用については見過ごしてしまうことがあります。ですから、苦しい気持ちを出されたらどうするかという、「受け取り教育」についても同時に考えておく必要があります。

つまり、「子どもからつらい気持ちを打ち明けられた時にどうすればいいのか」あるいは「こういう反応だけは絶対にやめてほしい」という情報を保護者に提供し、先生にも研修をする必要があるのです。

心理教育がどのような逆効果をもたらすのか、それをどのように予防するのかというところは、スクールカウンセラーがフォローしたいところです。

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