疎結合システムとしての学校

スクールカウンセリング

組織的対応

学校では、様々な問題が起こります。多くの場合、その対応は個人に任せてしまうのではなく、組織的対応になることが求められています。具体的には「チーム対応」とか「チーム支援」などと言われます。

チームになることで、組織で問題を共有できます。それによって問題を多角的にとらえることもできますから、一人で対応するとき以上の視点を獲得できます。そして、役割を分担し、迅速に幅広く対応できるというわけです。

チーム対応の現場

このチーム対応ですが、問題が起こるたびにいちいちチームを形成していると、かなり多くのチームを必要とするでしょう。荒れた学校では、50個くらいはできてしまうかもしれません。

「いやいや、50個では足りないよ」という声も聞こえてきそうです。

疎結合システム

学校という組織は、以前から疎結合システム(loose coupled system)であると指摘されてきました。

疎結合システムとは、学校組織のそれぞれの要素(管理職と教師、教師間、教師と生徒など)がゆるやかにつながっているものです。

いわゆる組織図のように、上位組織を頂点として、そこから下位組織へ分岐していく官僚制システムとは違います。官僚制システムは縦割りで指示命令系統がカッチリとタイトにつながっています。学校はこういう組織ではないのです。

疎結合システムの特徴

疎結合システムの特徴には以下のようなものがあります。古い文献ですが、佐古秀一(1986)「学校組織に関するルース・カップリング論についての一考察」(大阪大学人間科学部紀要,12、135-154)を参考に解説してみましょう。

1. ルース・カップリングによって、環境内に生じる微細な変動に対して組織全体が対応しなければならない確率(probability)を下げることができる。

緩やかにつながっていますから、ちょっとした問題は近くの人が対応します。ですから、問題が全体に波及することはありません。

2.組織の中に鋭敏な感覚メカニズムをもたらすことになる。

タイトな組織であれば、自分は営業部、総務部、財務部というように役割がはっきりしており、自分の領域も明確です。そうすると組織内のちょっとした変動や「あれ?」と思ったことがあっても、それが自分の領域とかかわりのないことであればスルーしてしまいがちです。

官僚制システムは、領域がはっきりと境界づけられている分、鈍感な感覚システムと言えるのかもしれません

しかし、ルースカップルは、緩やかなつながりですから、それぞれの要素(例えば教師)の自律性が高く独立しています。ですから、「あれ?」と思ったらそこに問題があることを察知して動き出すことができます。その変化を中心にして、近くの要素が結束を強めて解決や適応に向けて対応します。

そして問題が解決したら、また緩やかなつながりに戻っていきます。

3.局所的な適応に適したシステムである。

ですから、ルース・カップリング・システムは、外部からの刺激に対して組織が全体として適応するというよりも、その刺激を受けたところが、局所的に適応して何とかしてしまうというシステムということでしょう。

4.システム内に、多数の変異(mutation)や問題に対する新規な解を保持しておくことが可能である。

緩やかにつながって局所的に対応でき、それが組織全体に波及することはあまりありませんから、多数の変異があったっとしても局所的に適応しつつ、組織はその変異をそのまま保持できるのです。

様々な要素は、刺激が起きた場所や性質によってつながり方が多様になります。

あるAという児童生徒の問題は、その子どもに関わる担任、養護教諭、部活動顧問などのつながりが強まり対応がなされ、同時に別の場所では、Bという児童生徒の問題が、担任やスクールカウンセラー、特別支援教育コーディネーターのつながりのなかで対応されている。

このように問題によって対応するつながり方も多様なので、そこに新規な解を保持しておくことが可能となるのでしょう。

5.システムにおける一部の損傷がその部分のみに限定され、他の部位に影響を与えない。

緩やかにつながっているからこそ、その問題を切り離してしまうこともできます。そもそも局所的な適応に優れているので、一部の損傷はその部分のみに限定されるということでしょう。

6.行為者にとって自己決定(self-determination)の余地が大きい。

行為者同士は緩やかにつながっていますから、行為者は自律性や独立性が高くなりますので、自己決定の余地も大きいと言えます。そのため、組織の中で教師は比較的自律しており独立性が高いのです。

7.行為者を共働させるためには時間や費用がかかるが、これらのコストを節約できる。

タイトな官僚制組織であれば、問題が起きたら、財務から一人、総務から一人、営業から一人といったように、各組織(部署)から人員を出して協働させなければなりません。その分、時間やコストがかかります。

しかし、緩やかなつながりは自己決定の余地が大きい行為者たちが、問題に応じて自律的につながって、問題解決システムを起動させるので、コストを節約できるという側面もあります。

疎結合システムは、指示命令系統によって対応するのではなく、ゆるやかにつながっている人々が、問題の発生に伴って自己組織的に局所的なチームとなり、最適化された機能を機敏に果たしていると考えられます。

したがって、学校は教師の自律性が高く、問題はまず局所で対応されていると理解できます。そのような柔軟な機能が発揮されるため、さまざまな問題がある中でも、学校組織全体が崩壊することは少ないと言われています。

疎結合システムの負の側面

疎結合システムには負の側面も指摘されています。それは、各要素どうしは綿密に相互依存しているわけではなく、ゆるやかにつながっていることに起因します。

たとえば、問題が発生した場合、その問題に影響を受けないように、各々の要素が相互関係を弱めることによって、問題を切り離し、問題を問題として含みつつ、組織体としての存続を可能にもします。

たとえば、最前線で問題にかかわって頑張っている要素(たとえば担任)とのつながりをさらに緩めて、その要素を孤立させてしまうおそれも十分にあるのです。

疎結合システムは、必ずしも指示命令系統によって情報が伝達されるわけではないので、上位システム(管理職)が組織を管理しにくいという負の側面も有するようです。

こういう組織体の中でスクールカウンセラーも働いているわけです。学校での問題解決というものを、学校の組織論から考えてみるのも勉強になります。

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