個人化する支援

スクールカウンセリング

個人化する支援

前回、グループ心性をまとった生徒を、一人の個人にもどす個人化する支援について書いてみました。それについてもう一つ思い出したことがあります。

ある描画法を使って個人化したケースです。

ワルティッグ描画法

ワルティッグ描画法というものがあります。8個の枠があって、その中に刺激となる小さな模様が描かれています。この模様を使って描画をするというものです。

ある時、授業離脱をして廊下をフラフラしている3年生の女子生徒3人がいました。廊下を徘徊していますが何かの悪さをするわけではありません。先生たちに強く反抗することもありません。でも授業から抜け出して廊下をフラフラするのです。先生たちは対応に苦慮していました。

たしか9月頃からこの問題が浮上していました。私がこの子たちに会ったのは10月中旬ころだったと思います。

3人の生徒

3人の特徴は次のような感じ。

1人目は身体が大きく口調の荒い子でした。家庭環境が複雑で、年下のきょうだいもたくさんいました。親は下の子の世話にかかりっきりで、この子に目をかけることはありませんでした。

2人目は学力がとっても低く、自信なさげで、ほっそりと痩せた小さな子でした。いつも1人目の子にくっついていて、それで何とか虚勢を張っているようなところがありました。

3人目は1学期までは普通に過ごしていた子でした。勉強もできてしっかりしていた子です。ただ、両親が不仲で離婚問題が浮上している子でした。夏休み明けに雰囲気がガラリと変わっていました。

背景を知ると、注目を集めたい、誰かにかまってもらいたい、といったところが共通するようでした。

相談室へのいざない

私は職員室から相談室に戻ろうとしていたときに、この子たちと鉢合わせました。ちょうど彼女たちは「教室に戻れ」と先生に言われていて、「えー」「やだ」などと言っている時でした。

そこで私はどちらに対してというわけでもなく、「もしよければ相談室に来てもらってもいいですが」と言ってみました。すると先生も3人も「じゃあ」という感じで、1時間だけ相談室で過ごすことになりました。

ワルティッグ法の実施

相談室に入った彼女たちは気だるそうにしていました。相談事を話すという様子も全くありません。一人の子が落書きを始めたので、ワルティッグを紹介したところ、3人ともやってみたいということになりました。

それそれが影響を受けないように、席を離して実施しました。

第一枠

第一枠は、枠の中央に点が一つあるだけ。その枠の中に自由に好きなものを描くのですが、3人はこの枠に同じものを描きました。時計です。

この枠に時計が描かれるのは珍しいことではないのですが、それぞれ離れて描いていたのに、同じものが描かれたのは印象深い出来事でした。

ただ、大きな違いがありました。1人目と2人目の子は3時。1学期までは成績もよく普通に過ごしていた3人目の子だけは9時でした。午後3時と午後9時です。

個人化の開始

「みんな気持ちが通じているんだね」と伝えると、身体の小さな子はとても感動して「本当だ、不思議」とはしゃいでいました。ここから個人化が始まります。

私は全体に対して次のように語りかけました。ただターゲットにしていたのは、1学期まで普通に過ごしていた3人目の子です。

「みんな時計を描いたけど時計が差している時刻が違うね。2人は3時で、あなたは9時。午後9時だから一日があと3時間で終わってしまう。他の2人は3時だからまだまだ時間がありそうだね。午後9時を無意識に描いたということは、どこかで時間が無くなってきていること、時間が迫っていることを気にしているように思うな。他の2人はもう少し余裕がありそうだね」

中3の10月ですから受験が迫っているわけです。1学期までは普通で成績もよかった子ですから、「いつまでも今のままではいけない」ということを心のどこかで感じていたはずです。

9時を描いたこの子は、私の解釈をかなり緊張した面持ちで微動だにせず聞いていました。だから私はもう一押ししてみようと思いました。

「もしかすると、何かに焦っているというようなことはない?」

その場では「別にないよ」と言っていましたが、表情はこわばっていました。

それから

それからこの9時を描いた子は急速に回復していきました。廊下を徘徊することはなくなり、授業に戻っていきました。この子は元に戻るきっかけがほしかったのかもしれません。

身体の小さい子は、何度かスクールカウンセラーと話したいということで相談に来ました。不安があったり、自信がないことを語っていました。あまり勉強が得意でないということがネックになっているようにも思いました。

だから、資格を取れる高校を目指した方が良いという進路指導的なカウンセリングになっていきました。そういう時間の経過とともに廊下の徘徊はなくなり、高校への進学を目指し始めました。

そうしたら、身体の大きな荒い口調の子も廊下を徘徊するがなくなりました。

卒業が近かったり先生たちの働きかけなどいろいろな要因が重なってこのようになっていったのだと思います。私のかかわりだけがきっかけになったとは思いません。ただ、その一つとして私との描画の時間が作用したのではないかと思っています。

個人化する支援

生徒は集団心性を身にまといます。それが周りの人とのつながりを感じさせ、自分の安心や安全を保障する作用があります。

ただ、それは本来の自分ではない感覚をつくりだすことがあります。本心をごまかしたり隠したりする隠れ蓑になったり根拠になることもあります。この身にまとっている集団心性に苦しむこともあります。

だから、生徒を集団心性から切り離して個人として扱う個人化が、生徒への心理支援になるようです。

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