女子生徒の乱入
まだ私が若いときの話。中学校での出来事です。11人の女子生徒が相談室になだれ込むように入ってきました。憤懣やるかたないといった様子で興奮気味でした。
その様子を見て、私がとっさにやったのは、グループを枠づけることと生徒のアセスメントでした。
枠づけ
私の勤務は17時までだったのですが、彼女たちがやってきたのは16:45頃。だから「15分だけね」と約束してから話を聴くことにしました。15分と限定して枠づけておかないと、収拾がつかなくなるかもしれないと考えたからです。
17時までと限定しておくことで、とりあえずの収めどころ(「もう約束の時間になったからあとは来週ね」)を確保しておく必要を感じたのです。彼女たちの勢いはそれほど強いものでした。
体育教師を辞めさせろ
話を聴くと服装のことで体育教師から注意されたとのこと。半そでを肩までまくっていて、それを注意されたのが気に食わなかったようです。そこから話は広がっていき、学校批判や他の教師批判、誹謗中傷もたくさん聞かれました。
アセスメント
そんな話を聴きながら、11人の顔ぶれを観察していました。社会学の分野では、反学校文化、向学校文化、非学校文化という分け方があります。これでいうと、反学校文化に染まっている生徒が5人、向学校文化の子が3人、非学校文化の子が3人といった様子でした。
そして11人の今の心の状態は反学校文化一色に染まっているようでした。感情と勢いに任せて、自分を振り返ることをせず、社会的な規範も忘れ去って、他者のことなど考えられず、今の不快な感情を気持ちよく垂れ流している状態。
「そうだ、そうだ」「それは、ひどい!」「最低!」「バカじゃん!」「キモ」「死ねよ」など盛り上がっていました。私は「へー」とか「そうなんだ」などと彼女たちに合わせて話を聴いていました。
さてどうするか。もう少しで17時だからそれで切り上げようかと考えていました。しかし、彼女たちは話を止めようとしません。
集団内の亀裂
ある程度の感情が吐き出されると、これまで主に聴き役だった向学校文化の生徒が口を開きました。
「先生たちは人を外見で判断するなと教えているくせに、人を外見で判断しているのは先生たちの方だろう!」
それに対して「そうだ、そうだ、私たちは絶対に人を外見で判断しない!」「しない!しない!」とまた教師批判。
ただ、私は感情まかせだった内容にちょっと変化が生じ始めているように感じました。「先生から大切にすべきと教えられてきたこと」を持ち出し、それに基づいて批判するという具合に、すこし理性的になっていることを感じたからです。
反学校文化一色だった集団のに、向学校文化の生徒の色が混じってきたのです。向学校文化の生徒の心が回復してきたと言ってもいいでしょう。
私はこの亀裂をさらに広げたいと思っていました。集団心性が破壊的で、攻撃性と衝動性一色でしたから、そこにくさびを打ちたかったのです。
そう思った瞬間、相談室のドアが開きました。教頭先生が入ってきたのです。
教頭先生の登場
どうやら一人の先生が、勢いよく相談室に入っていった女子生徒たちの様子を見ていて、それが職員室の中で共有されていたようです。「キリン先生のことが心配だ」ということになり、それで教頭先生が様子を見に来たようでした。
教頭先生は生徒たちに「すでにキリン先生の勤務時間を過ぎているから、続きは今度にしなさい」といい、まだ話したいという生徒との間に「あと5分だけ」という約束を取り付けて、相談室から出ていきました。
教頭先生が出ていった瞬間
教頭先生が相談室から出ていった瞬間、ある反学校文化の生徒が、「あのハゲ何しに来たんだ、バカじゃん」と言い、彼女たちは一斉に笑いました。
そこで私は言いました。
「うーん、今、みんな教頭先生の頭がハゲているのを見て、それでバカと判断して笑ったよね。今の今まで ”私たちは人を外見で判断しない” と言っていたのに、こんなに露骨に人を外見で判断している姿を見せられると、君たちの話はちょっとまともには信じられないなあ」
これは効きましたね。
反学校文化の子たちは顔がこわばりひきつっていました。向学校文化の子たちはハッとした表情になりました。非学校文化の子たちは「たしかに」という表情でした。
「さて、時間も約束の5分が経ったから、これでおしまい。気をつけて帰ってね」といって、この興奮はサーっと消えていきました。彼女たちの心もかなり冷静さを取り戻したのではないでしょうか。
その後
その後、この11人が集団化することはありませんでした。この出来事があって1か月くらいたったころには、向学校文化の3人は、自分の悩みや不安を先生に話しているようでした。
反学校文化のうち2人は、カウンセラーと話したいと言って、それから3,4回ほど、私はそれぞれと別々に話しました。
翌年になって、非社会的な子が一人、数回相談にやってきました。
その他の子たちのことは分かりません。
個人化という支援
学校での生徒たちはグループ心性をまとって生きています。それをまとえないから登校できなくなる子もいます。グループ心性をまとえないと適応できないけれども、それをまといすぎると自分らしさを失ってしまう。
スクールカウンセリングでは、生徒がまとうグループ心性を解除して、生徒を一人の個人に戻すことが支援になることがあります。生徒を個人化することが支援になるわけです。個人化という支援です。
集団心性を理解する
これからのスクールカウンセラーは、先生たちとの協働が求められています。ですから、このグループ心性をもう少し研究し、集団力動をうまく解説できるようになると、チーム会議や先生たちとの雑談の中でも使える何かを提供することができるようになるかもしれません。
集団を見れるスクールカウンセラーです。こういうスクールカウンセラーがいると、学校は本当に助かるでしょう。スクールカウンセラーも日々勉強です。
