アタッチメントを育む
子どもが学習に向かうためには、何よりも自分がいる場が安全で、何か困ったことがあったらこの人が助けてくれるだろうという安心感が必要です。この心理的な安全・安心の感覚の源にアタッチメントがあります。
アタッチメントとは、「くっつく」ということです。赤ちゃんは養育者とぴったりくっついています。母乳を飲む赤ちゃんの姿を見ると、母親の肌と赤ちゃんの肌がお互いに吸い付くようにしてぴったりとくっついています。
くっついているとき、赤ちゃんは単に栄養を取っているだけでなく、この安心・安全の感覚も育まれているのだと考えられています。
アタッチメントは内在化する
歩き始めていろいろなことを探索し始めると、幼児の周りには危険がいっぱいです。失敗して痛い経験をすることもあります。
そんなとき幼児はくっつこうとする欲求がパッと強まりまって素早く大人とくっつきます。そして、そのくっつく対象(アタッチメント対象)がなぐさめてくれれば、次第に落ち着いていき、再び探索行動(学び)を開始します。
幼ければ幼いほど、身体と身体が物理的に「くっつく」ことを求めますが、成長するにつれてアタッチメント対象は内在化されて、心の中にイメージ(内的表象)として定着します。
そしてアタッチメント対象は、このイメージに近いもの(親戚、祖父母、きょうだい、毛布、ぬいぐるみ、自分の好きなお気に入り)などに広がっていきます。
すると、身体が物理的にくっついていなくても、近くに養育者がいなくても、心理的にくっついている感覚やアタッチメント対象をイメージするだけで、何とか不安や危険にも対処できるようになっていきます。
敏感性が大切
アタッチメント対象は、子どもが出す「びっくりした」、「困った」、「不安だ」といったシグナルを敏感に察知して速やかに対応する必要があります。そうすると素早く安心・安全の感覚が回復するのです。
こういうことが繰り返されて、赤ちゃんは自分で対応できるスキルを学びながら、自分の心の中にアタッチメント対象を定着させていきます。そして、安心・安全の回復はどんどん大きく強くなって心の中に根づいていきます。
敏感性は1/3で十分
それでは、子どもが発するシグナルを察知すればするほど、そして、素早く対応できればできるほど良いのでしょうか。実はそのようなことはないようです。
この分野の専門家によりますと、最もスムーズで良好なやり取りがなされている養育者と赤ちゃんでさえ、両者が同調できるているのは30%程度だそうです。3回に2回は赤ちゃんのシグナルは見過ごされ、応答もなされておらず、ミスマッチ状態だったとのこと。
やり取りがかなり良好な親子ですら、シグナルは70%弱も見過ごされていたということです。
このことから言えることは、すべてを敏感に察知する必要などはないということです。そして、何回かに1回の割合で安心感を回復してもらった赤ちゃんはその経験を利用できるということです。
赤ちゃん(子ども)は期待し続ける
たとえ大人側がシグナルを取りこぼしたとしても、子どもは大人に対して、次は安心感を満たしてくれるはずだという期待を抱き続けるのです。
そして、3回に1回、その期待が満たされるならば、それで安心や安全の感覚は十分に定着して使えるものになるということです。
篠原郁子(2024)『子どものこころは大人と育つ:アタッチメント理論とメンタライジング』光文社新書 に書かれていました。
おそらく小学生にもなったら、5、6回に1回、あるいはそれ以上でも十分なのかもしれません。
まとめ
赤ちゃんや子どものシグナルを敏感に察知することが必要だと言われています。しかし、それは1/3回の割合でできれば十分であり、もっと少ない割合でも大丈夫だと考えられます。
その程度しか満たされないからこそ、子どもは援助要請行動のスキルを学ぶことになり、アタッチメント対象にキャッチしてもらえるようなタイミングを計るなどして、人間関係を学んでいくことになるのかもしれません。
適度にズレがあるからこそ、そのズレの解消を目指して子どもは学ぶということでしょう。

