日常の外の意味
病院や地域のカウンセリングルームなどは、クライエントの日常生活の圏外にあるのが普通です。
その場合、カウンセラーはクライエントの日常(家庭、職場、学校など)が実際にどのようなものであるのか、そこで実際にどのようなことが起こっているのかを知ることも見ることもできません。当然、かかわることもできません。
だからこそ、カウンセラーはクライエントの話すことを真実として、クライエントの立場に立って話を聞きやすいのだと思います。
日常の内と発生するズレ
しかし、スクールカウンセリングは、児童生徒にとっての生活の場の内でなされます。ですから、クライエントである児童生徒からだけでなく、いろいろな方面から話を聞くことができます。クライエントである児童生徒の日常の様子を観察することもできます。
そうしますと、スクールカウンセラーは、児童生徒が相談室で語った内容と実際に起こっていることの間にズレがあるのを知ることもしばしばあります。クライエントの語りがすべて正しいとは限らない、そう感じることもあるのです。
ズレの中に変化を探る
例えば、カウンセリングルームでは「私、あの先生のこと嫌い」と言っていたはずの子が、廊下でその先生と楽しそうに談笑している姿を見ることがあります。
「男子とは話したことがない」と言っていた子が、普通に男子と話していたりするのを目にすることもあります。やはりズレがあるのです。
このズレは、その生徒がウソをついているわけではなく、すでに変化が生じ始めているということなのだと思います。「ズレの中に変化の種を探る」、「ズレの中に変化の種をまく」、スクールカウンセリングはそんなカウンセリングになります。
ズレを修正すること
クライエントはカウンセリングルームの中で自分の考えや思いを話します。それをカウンセラーに聞いてもらい、気持ちを映し返してもらったりします。
自分の内面をカウンセラーに話した途端、クライエントは「今自分が言ったことは本心とはちょっとちがうな」、「言いたいことはそんなことではなかったかな」、「ちょっと言い過ぎたかな、話を盛りすぎたな」といったことを経験するものです。
クライエントの心の中でズレが生じているのです。
心の中のズレだけでなく、外との間にズレが生じることもあります。たとえばカウンセラー(外)との間に理解のズレを感じるなどです。
いろいろなところにズレが生じているのです。だからクライエントは、そのズレを修正しようとして、何度も語り直したり、感じ直したりしながら、自分が納得できるストーリーを紡いでいくのだと思います。
ズレを修正することが動機となって、語りをさらに深めていくと言えるわけです。ズレを修正しようと動機づけられることが、語りの変化を引き起こしていくのです。「ズレは変化の種」です。
変化を取り込む
このようにズレに着目して、そのズレを話題にして、そのズレを取り込みながらカウンセリングは行われる側面があると思います。特にスクールカウンセリングではその傾向が強いと思います。
学校は変化に富んでいる場所です。あちらこちらにズレがあることを見聞きします。スクールカウンセラーは、その変化を積極的に取り込むことによって、新しいストーリーを立ち上げるきっかけを探っている面もあります。
人と環境の相互作用
スクールカウンセリングではいくつかのアプローチがあると思います。私は今のところ3つのアプローチが有効ではないかと考えています。その中の一つに生態学的アプローチがあります。
生態学的アプローチは、人も環境も常に変化し続けているという前提に立ちます。人は毎日同じルーティーンをこなしているように見えても、毎日同じ行動をしているわけではありません。
天気が晴れているときと雨が降っているときとでは違う行動になりますし、そのときに思い出されることや考えること、そして行動にもまた変化が生じます。一日として同じ日、同じ行動、同じ状況というのはありません。
そのことは、周りの他の人にもあてはまることです。そう考えると変化ばかりです。
アンバランスの利点
つまり、人と環境の相互作用は常にアンバランスな状態にあります。ズレが生じているのです。そのアンバランスな状態にあるからこそ、人はバランスを保とうとして常に動機づけられています。
そういう変化が絶え間なく続く文脈の中で、人はこれまでとは違う行動をすることがあり、新しい行動や考え方が生み出されることがあるのです。人も環境もその相互作用もつねに変化しているわけです。
もちろん決まったパターンのようなものはあるでしょう。それがないと生活は破綻します。しかしそのパターンにも常に揺らぎが生じているのであり、その揺らぎの中で支援もなされているのです。
変化に乗じた支援
そして、揺らぎの中から安定を目指し、安定したかと思うとまた揺れるプロセスにおいて、ある時、偶然生じた相互作用や出来事が分岐点になって新たな変化が生じる。
スクールカウンセリングでは、そのようなパターンや揺らぎそして適応努力といったこともあてにしながら行われる支援になります。
このことを表現を変えるならば「変化に乗じた支援」と言えるかもしれません。予期せぬことが生じることを前提とするような、偶然を大いに含みこんだ支援となるわけです。
生態学的なアプローチによる学校臨床の特徴は、この揺らぎの中でなされる支援というところにあると思います。
まとめ
人も環境も常にアンバランス。ズレが生じています。だから人はこのアンバランスを修正して常にバランスをとろうとしています。人も環境も常に変化しつづけているわけです。その絶え間ない動きを変化への動機づけとしてとらえ、つなげ、膨らませる。その変化に乗じて支援を組み立てる。
スクールカウンセリングは、クライエントの内的世界ばかりに軸足をおかず、こういった変化やズレを活用します。これは発達促進的とか成長促進的とか言われる働きかけに通じると思います。
